カメラとミリ波レーダーの一体センサー
カメラとミリ波レーダーの一体センサー
(写真:日本電産エレシス)
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 車載電子装置の日本電産エレシスは、自動車の周囲を認識するミリ波レーダーを車室内で使用可能にする技術を開発、2019年秋以降に量産する。一般に76G〜77GHzなどのミリ波はガラスを透過する際に減衰し、室内にレーダーを置くと検知距離が半分ほどに短くなる。このため現在はフロントグリル内に配置することが多い。汚れが付着し検出距離や精度に悪影響を及ぼすことがある。

 今回、法規で制限するアンテナへの入力電力は以前から変えず、アンテナからの出力電力を2倍以上に高める技術を同社は開発した。この結果、フロントグリル内など車室外に設置するのと同じ約200m先の対象物を検知できるようになった。

 このほど単眼カメラとともに一体化したセンサーシステムを開発した(上掲の写真)。一体品は、既存の単眼カメラと同様にバックミラーの裏(前側)に配置できる。自動ブレーキ機能などの実現に必要な信号処理機能も搭載している。

 同社は、今回のカメラ一体品を同等機能の既存品よりも低コストに生産できるとみており、「高級車のみならず安価な自動車を含む幅広い自動車への採用を狙う」(日本電産エレシスの親会社でこのシステム開発を主導している日本電産 執行役員 先進システム研究開発センター長の三重野 敏幸氏)。

 アンテナ部を主に樹脂で形成して軽量にもできる。安価かつ軽量という利点を生かし、自動車のほか、ドローンへの搭載も見込む。自律走行機能の搭載が見込まれる農機やAGV(無人搬送車)にも売り込んでいく。

 さらに、今回開発したミリ波アンテナを使うと、フェーズドアレー技術によってミリ波のビームを生成できる。3次元的に空間を認識するLiDAR(Light Detection and Ranging)と同様の機能も実現可能だ。

導波路での損失を1/10に

 アンテナの出力を高められたのは、ミリ波信号をアンテナまで導く導波路の損失を大幅に低減したためである(図1)。菓子のワッフルを作る器具のような形状の多数の突起(図1の「ワッフルアイアン」)で、電波の通り道(図1の「リッジ」)を囲んで電波が外部に漏れないようにする。ミリ波向けで一般的なストリップラインによる平面アンテナを使う場合と比べて、導波路での損失はほとんどない。従来の約1/10に抑えられるとする。アンテナ全体の効率は、平面アンテナで20%前後というが、今回の方式では70〜80%になる。アンテナはホーン形である。試作品の正面方向のアンテナ利得は25dBiだった(図2)。検知角は90度と広い。

図1 ミリ波レーダー部に独自アンテナ
図1 ミリ波レーダー部に独自アンテナ
開発品に搭載されているミリ波レーダー技術に関する学会論文用に試作したアンテナ(写真)と導波路の構造1)(図)。ワッフルアイアンリッジ導波路(WRG)と呼ばれるもので、リッジ部に電波を通す。(図と写真:WGR(京都市)と日本電産エレシス)
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図2 25dBiの利得を確認
図2 25dBiの利得を確認
76.5GHz帯平面アレーアンテナの試作品の電界面での利得1)。正面(0度)で25dBiと、設計通りの測定値を得た。(図:WGRと日本電産エレシス)
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 この導波路を同社は「ワッフルアイアンリッジ導波路(WRG)」と呼ぶ。WRGでは導波路の形成に支持材として誘電体を使わないため、誘電体損が生じないという特徴がある1)。設計仕様通りのアンテナを製造しやすい利点もある(図2)。誘電体を使う既存のアンテナでは、誘電体材料の誘電率の異方性を正確に制御することが難しく、設計仕様通りに出来上がらないことがあった。

 小型にもしやすい。ホーンアンテナをアレー状に前面に配置し、裏面に導波路を積層する構造が取れることによる。平面アンテナでは導波路とアンテナを同一基板に形成するため、ある程度の出力を得るには面積が必要になる。