2015年8月12日に中国・天津港で発生した大規模爆発。国内の報道などによると消防隊の放水した水と化学物質が反応して大爆発に至ったのではないかとみられている。しかし、倉庫には多種多様な化学物質が大量に保管されており、事故原因や2次被害についてさまざまな憶測が流れた。聞き慣れない化学物質にどんなリスクが潜んでいるのか。まずは、正しい情報を得ることが第一歩となる。(本誌)

 2015年に中国天津市の港湾部で発生した大規模な爆発事故は、死者160人以上、負傷者700人を超す大惨事となった。天津港は中国北部最大の港で、大型物流拠点として同地域には日本企業も数多く進出している。

 国内報道などによると、倉庫に保管されていたとされる主な物質は表1とされる*1。日本では考えられないほど、大量の多種多様な物質が1カ所にまとめて保管されていたようだ。しかし、爆発事故の原因に関する中国政府の公式な情報は決して十分とは言えず、断片的な情報が出てくるだけだ。事故の跡地を公園にするという発表はあっても、現状で事故調査結果が公表される様子はない*2。保管されていた化学物質の持つ毒性、爆発性、可燃性といったリスクについても公式見解はない。

*1 この他、化学反応により爆発性の物質を生ずる次亜塩素酸があったとも報道されている。

*2 中国当局が事故原因の調査報告書を2015年9月中旬に公表するとの報道が中国であったが、2015年11月中旬の時点で公表は確認できていない。

 このため、事故現場で保管されていた化学物質とその危険性に関して、憶測に基づくさまざまな情報がインターネットなどを介して錯綜した。例えば、爆発によって生じた毒性のある化学物質〔シアン化ナトリウム(NaCN)など〕がPM2.5などと同様に日本に飛来するといったものがあった。

 後述するようにNaCNがPM2.5や黄砂のように風に乗って日本に飛来することは考えにくいのだが、錯綜する情報に不安を煽られて右往左往する企業も多い。実際、ある日本の企業から筆者の元に「2次被害や人体への影響はないのか」といった問い合わせがあった。正確な情報を得にくい新興国などの海外で事故が発生した場合は、化学物質についての正しい知識を持ち、対応を自分である程度判断する必要がある。