2016年3月26日、本格運用前の試験観測中だったX線天文衛星「ひとみ」との通信が途絶えた。観測対象を変えるため姿勢を変更して十数時間後のことだった。宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、それまでに届いたデータの分析を進めて機能回復を試みたが、主要な機器が破損しているとして同年4月28日に復旧を断念。国際的にも大きな期待が掛かっていた高精度のX線観測システムを、打ち上げからわずかで2カ月余りで失うこととなった。

 X線天文衛星「ひとみ」はJAXAの宇宙科学研究所(ISAS)が中心となり、米航空宇宙局(NASA)など国内外の大学、研究機関を巻き込んだ国際的な大規模プロジェクトとして開発された*1。質量は約2.7tで、観測機器を搭載した伸展部(伸展式光学ベンチ、以下EOB)や太陽電池パドルを開いた状態での大きさは、高さ13.859×幅9.209mになる(図1)。

*1 ひとみは、従来のX 線天文衛星「すざく」の10~100 倍の感度があるとされ、その観測成果が期待されていた。

図1 X線天文衛星「ひとみ」
図1 X線天文衛星「ひとみ」
高エネルギー天体を観測するためのX線/γ線観測システムを搭載。質量は約2.7t。高度575kmの周回円軌道上でブラックホールや超新星残骸などの高エネルギー天体をX線やγ線で観測するのが目的だった。図:JAXA
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 過去、多数の人工衛星を開発・運用してきたJAXA。なぜ、わずか2カ月でひとみを破棄することになったのか。JAXAの異常事象調査報告書(以下、報告書)からは、設計の甘さや慎重さに欠けた運用が透けて見える1)