生産現場の情報をきめ細かく吸い上げて分析することで、生産性や品質の向上をもたらす工場のIoT(Internet of Things)。理念ばかりが先行している感もあったが、ここに来て具体的な事例が出始めるとともに、導入を容易にするソリューションやツールも充実してきた。「 第27回設計・製造ソリューション展」(DMS展、2016年6月22~24日、東京ビッグサイト)から見えてきた工場IoTの未来の姿を紹介する。

 「情報の遅れと分断を解消するために構築した」──。富士ゼロックスは、IoTの具体的な導入事例として同社鈴鹿工場で稼働させている生産・品質情報管理システム「SCQM(Supply Chain Quality Management)」を出展した。変化点管理による品質向上とトレーサビリティーの確保を目指したシステムで、IoTによって海外工場も含めた生産現場のデータを連携させているのが特徴だ(図1)。

図1 富士ゼロックスの「SCQM」
図1 富士ゼロックスの「SCQM」
4M2Sの生産情報を時系列で整理できる(a)。トレーサビリティーも管理可能(b)。画面上の小さな表右上の「907WS…」が部品番号で、中央の大きな表は、その部品を使ったプリント回路基板(PCB)の一覧表。同表右から2列目が組み立て済み製品のシリアル番号を示している。PCB出荷直後は空欄〔(※)で表記〕になり、海外工場での組み立て完了時に製品シリアル番号で埋まる。
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 SCQMでは、生産現場における「全ての生産情報」(同社)を発生時刻にひも付けて記録する。全ての生産情報とは、同社によれば4M2S、すなわちMan(人)、Machine(機械)、Method(方法)、Material(材料)、Space(場所)、System(仕組み)を指す。このうち、例えばManに関しては、作業者がIDカードを生産現場の入力機器にかざして作業ボタンを押す、といったルールでデータを収集する。これらの情報を時系列で並べてグラフに表示することで、管理担当者が異常や異常の予兆に気付ける。

 時系列表示では、変化点を明示する。例えば、誰かが装置の設定を変更した場合は、その情報が変化点と位置付けられる。管理担当者は変化点の後で異常が生じていないかなどについて重点的に注意を払う*1

*1 この他、どの製品にどの部品が使われたかというトレーサビリティーを残す上でも生産情報を利用している。鈴鹿工場でのプリント回路基板(PCB)の実装工程では、回路基板も部品リールもシリアル番号で管理しており、生産情報によってリール部品がどの回路基板に実装されたかが分かる。

 SCQMは、海外工場も包含している。鈴鹿工場で製作したプリント回路基板(PCB)は、海外工場で複写機などの製品に組み込まれる。海外工場では組み立て前にPCBのシリアル番号を読み込み、組み立て完了時にPCBシリアル番号と製品シリアル番号をひも付ける。その情報をSCQMシステムに即座に反映させている。これにより、リールの部品がどの製品に搭載されたかを容易に追跡できる。

 同システム導入以前も稼働状況の確認や品質についての緊急対応は実施していたが、「情報の鮮度が低い上に部分的で、関連する情報とのつながりもなかったために対応が遅れていた」(同社)。これを解消すべく導入したのがSCQMシステムという。