ものづくりの基盤技術である接着技術の分野で日本が後れを取っている。世界の先頭にいるのはドイツだ。共に機械産業が盛んで技術力で拮抗するはずの両国だが、こと接着技術に関してはドイツの方がはるかに優位に立っている。同国を中心に世界の接着技術の動向と、ドイツが接着技術の開発や実用化を加速できる仕組み、そして日本の製造業への提言を、日本の接着技術の研究開発の第一人者が行った。(編集部)

 接着技術が今、欧米を中心に脚光を浴びている。ものづくりの急激な変化が接着技術の進化を後押ししているからだ。先進的な欧米企業は、[1]溶接を代替したい、[2]コストを削減したい、[3]異種材料を接合したい、といったニーズを抱えており、新しい接着技術にその解決策を求めている。

 中でも注目すべきは、[3]の異種材料接合である。接着技術はこの用途に特に向いているからだ。例えば、クルマのボディーでは、軽量化の要として「マルチマテリアル構造」が採用され始めている。鋼とアルミニウム合金、そして繊維強化樹脂から成る部材を自在に組み合わせて軽量化ボディーを造る設計手法だ。軽さを維持しながら異種材料を組み合わせていくマルチマテリアル構造は、適切な接合技術を選ばなければ成立し得ない。

 筆者が心配しているのは、新しい接着技術に対する日本企業の取り組みの遅さだ。このマルチマテリアル構造のボディーを見れば分かる通り、接着技術を駆使してこれまでにない製品を造る新しい設計は、既に実用化され始めている。にもかかわらず、新しい接着技術に関して、日本企業は欧米企業の後塵を拝しているというのが現状だ。

 この最大の理由は、日本企業の設計者が接着技術を軽視してきたことにある。これまで接着技術といえば「黒子」の存在だった。製品を造るには必要不可欠の基本技術であるにもかかわらず、製品の主要な機能に直結しないと見なされて後回しにされることが多かった。

 ところが、そうした時代は終焉を迎えつつある。設計革新を支えるため、接着技術はものづくりの黒子から主役に躍り出ようとしているからだ。今後は接着技術を知らなければ、新しい時代にふさわしい製品の設計が不可能になる恐れすらあるのだ。