製品のバリエーションを確保しつつコスト競争力を高める手法として脚光を浴びているモジュール化。しかし、モジュール化に合わせて開発プロセスを変えることや、モジュール戦略を主導する責任者を置くことの重要性は見落とされがちだ。日産自動車とフランスRenault社のグループが推進するモジュール戦略「CMF」を題材に、この分野において多くの研究成果を国内外で発表してきた筆者が“モジュール戦略の神髄”を解説する。 (本誌)

 さまざまな業界で、製品の多様化と開発の効率化を両立させる「モジュール戦略」が注目されている。しかし、モジュール戦略を巡る議論において、これまですっぽりと抜け落ちていた重要な論点がある。それは、「開発プロセスをどう変えればいいのか」ということと、「モジュール戦略を誰が主導するのか」ということだ。

 結論からいえば、モジュール戦略を成功させるには、開発プロセスを変更する必要がある。製品の構造(アーキテクチャー)をモジュール化することで、製品の特性が変わるのだから、開発プロセスもそれにふさわしいものに変えなければならない。

 ところが、モジュール戦略を取り入れた多くの企業が製品のアーキテクチャーばかりに着目しており、開発プロセスには注意を払っていないように見える。モジュール戦略の多くが失敗に終わる原因も、実はここにある。

 なぜ、開発プロセスを変えようとしないのか。その理由は、かつての“成功体験”にある。そもそも、現場の技術者はずっと慣れ親しんできた開発プロセスを変更することに対して抵抗感を覚えるものだ。それが、数々の成功をもたらしてきた開発プロセスであれば、なおさらである。こうした成功体験があるので、モジュール戦略に合わせて開発プロセスを変えようすると、現場が“抵抗勢力”になってしまうのだ。

 そこで重要な役割を担うのが、現場を説得できる事業部長クラスの「シニアマネージャー」である。従来、モジュール戦略は技術の現場が主導するものだと考えられていた。しかし、実際には現場だけで解決できない問題が多いため、強力な権限を持つシニアマネージャーが重要な役割を果たすのである。

 このシニアマネージャーを置くことでモジュール戦略を成功させたのが、日産自動車とフランスRenault社のグループ(以下、日産・ルノー連合)だ1)。そこで本稿では、日産・ルノー連合が推進しているモジュール戦略「CMF(Common Module Family)」の事例を紹介した上で、開発プロセスを変えることの重要性やシニアマネージャーの役割について解説する。