自動車ミラーの姿が近い将来、変貌を遂げようとしている。カメラとディスプレーを用いた「電子ミラー」がついに解禁になったためだ。後写鏡の歴史を振り返ると、1980年代にフェンダーミラーからドアミラーへの移行があった。今回の変革は、その時とは比べ物にならないほどクルマを大きく変えそうだ。期待と苦悩の入り混じる、開発現場の今を探った。

写真提供:Audi社、BMW社
写真提供:Audi社、BMW社

 2016年6月18日、欧州や日本で電子ミラーが解禁となった。ドアミラーやルームミラーの代わりに、カメラとディスプレーで周囲を確認する新技術だ。いよいよ量産車に搭載できる土台ができた。「期待は非常に大きい。実用化の時期は明言できないが、開発を進めているところだ」。日産自動車で空力技術を担当する技術者は、興奮気味に電子ミラーの解禁を歓迎した。

 先ごろ、国際連合欧州経済委員会(UN/ECE)が定める、後写鏡に関する規則「Regulation No.46」(以下、R46)の改訂作業が完了した。日本も、これを受けて2016年6月、道路運送車両の保安基準を改正。これにより、「基準を満たせば、従来の後写鏡を搭載しない、電子ミラーだけのクルマを公道で走らせてもよい」(国土交通省自動車局技術政策課車両安全対策調整官の村井章展氏)ことになった。

 UN/ECE規則改訂の議論自体は2012年ごろから始まっており、自動車メーカーは開発を進めてきた。特に積極的なのが欧州勢だ。ドイツBMW社は2016年1月、電子ミラーの機能をアピールするコンセプト車「BMW i8 Mirrorless」を発表した(上記の写真右側参照)。ドイツAudi社も、2018年に発売する電気自動車(EV)をイメージしたコンセプト車「Audi e-tron quattro concept」で電子ミラーを採用した(図1)。

図1 カメラとディスプレーで後写鏡を“電子化”
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図1 カメラとディスプレーで後写鏡を“電子化”
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図1 カメラとディスプレーで後写鏡を“電子化”
Audi社のEVコンセプト「Audi e-tron quattro concept」の例。これまでドアミラーのあった部分を小型のカメラに置き換え、すっきりとした車両デザインに仕上げた。カメラ映像を表示するディスプレーはドアトリムに設けた。

 日本勢も同様のコンセプト車を披露しながら投入時期をうかがっている。例えば、トヨタ自動車は2015年に発表した小型のコンセプト車「LEXUS LF-SA」でドアミラーを電子化した(図2)。

図2 トヨタもコンセプト車で採用済み
図2 トヨタもコンセプト車で採用済み
レクサスブランドから2015年に発表したコンセプト車「LEXUS LF-SA」。ミラー部を大幅に小型化したことで、空気抵抗も低減できた。
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