2016年4~5月にかけて発覚した三菱自動車とスズキの燃費不正問題。とりわけ三菱の場合は、データの改ざんを含む3通りもの不正行為を犯しており罪が重い。技術者はなぜ不正に手を染めてしまったのか。不正の背景を探る。

 ドイツVolkswagen社の排ガス不正が発覚してからわずか7カ月ほどの2016年4月20日、またしても自動車業界に激震が走った。三菱自動車による燃費不正の発覚だ。同社は、急きょ記者会見を開催。そこで明らかにされたのは、同社の「eKワゴン」(14~16型)と「eKスペース」(14、15型)、同社が生産し日産自動車が販売する「デイズ」(14~16型)と「デイズルークス」(14、15型)で意図的に燃費を低く見せるため、燃費試験に必要なデータを不正に申告していたことだった。

 「(日本の)自動車検査制度の信頼性を損う不正で、極めて遺憾である」(国土交通省自動車局審査・リコール課課長の斧田孝夫氏)。事態を重く見た国交省は、日本で型式指定を取得する全自動車メーカーに対し、同様の不正行為がないか実態調査と報告を命じる。そんな中、同年5月18日にさらなる衝撃が自動車業界を襲う。スズキも燃費試験で不正行為を行っていたのだ。

 詳細は後述するが、三菱が行っていた不正行為は三つだ。(1)軽自動車4車種で走行抵抗を改ざんしていたこと、(2)多くの車種で国の定めを無視した方法で走行抵抗を測定していたこと、(3)一部車種で国の定めを無視し机上計算から走行抵抗を求めていたこと――である。一方、スズキも、国の定めを無視した方法で走行抵抗を測定していた。

 技術者はなぜ、そうした不正に走ってしまったのか(図1、表)。公表された事実や専門家の見方を参考にすると、次のような二つのパターンが想像できる。一つは、競争の激化から高い燃費目標を課せられ、目標の達成が難しいにもかかわらず、有言・無言の圧力や個人の弱さもあって、「ノー」と言えずにデータの改ざんに走ってしまったこと。もう一つは、リソース不足で業務に追われ、チェック機能が不十分なことをいいことに、法令外のやり方や机上計算でデータをごまかしてしまったことだ。以下、詳しく見ていく。

図1 技術者はなぜ不正に手を染めてしまったのか
図1 技術者はなぜ不正に手を染めてしまったのか
本誌の推測。三菱自動車の内部事情に詳しい専門家などの取材をベースにまとめた。
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表 三菱自動車の燃費不正の発覚までの経緯とその後の推移
表 三菱自動車の燃費不正の発覚までの経緯とその後の推移
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