トヨタ自動車は人工知能(AI)を使った自動運転技術の開発で米NVIDIA社と手を組んだ。深層学習(ディープラーニング)の処理に適したNVIDIA社のGPU技術を使い、数年以内に自動運転システムを開発、量産することを目指す。背景には、日本連合だけに頼ることへの危機感がある。世界ではディープラーニングを巡る開発競争が激化しており、その潮流に乗り遅れることはできない。

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 「妥当な判断だ」――。トヨタ自動車は2017年5月、自動運転向けの人工知能(AI)開発で半導体メーカーの米NVIDIA社と手を組んだ。「驚いた」と語る業界関係者は多いが、ある自動車アナリストは冷静に受け止めていた。トヨタはこれまで、グループ会社のデンソーを中心に東芝などと日本連合を形成してAI技術の開発を進めてきた(図1)。だが、NVIDIA社と提携したことで、日本連合だけに頼る構図から抜け出し、グローバル連合ともAI開発を進めることが明らかになった。

図1 トヨタがNVIDIA社と協業
図1 トヨタがNVIDIA社と協業
日本連合とグローバル連合の違いは、サーバー側の技術まで手がけているかどうかにある。ディープラーニングではサーバー側で学習させた結果を、車両(端末)側に持ち込んで推論を実行する。NVIDIA社はサーバーと車両の両方にGPU技術を提供し、ディープラーニングの開発サイクルを短縮している。
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 狙いは開発リスクの分散にある。自動運転向けのAI技術の進歩は速く、どの技術が主流になるのか見えにくい。世界ではNVIDIA社を中心とするグループと、半導体最大手である米Intel社などのグループが主導権争いを繰り広げている。トヨタにとって、日本連合だけに頼っていては世界の開発競争から取り残されるリスクが高い。

 トヨタは数年前からグループ会社のデンソーに頼らない調達戦略を取り入れてきた。代表例が、トヨタが2015年から実用化している自動ブレーキ「Safety Sense」用のセンサーである。先行車を認識する「同C」のセンサーは、ドイツContinental社が供給している。歩行者まで認識できる「同P」はこれまでデンソーの単独供給だったが、最近ではContinental社との複数調達に切り替えた。今回のNVIDIA社との提携からも、グループ会社に頼らない同社の姿勢がうかがえる。

 トヨタは今回、NVIDIA社と提携したが、Intel社との連携も視野に入れているようだ。Intel社で自動運転技術を手がける関係者によると、NVIDIA社がトヨタとの提携を発表した直後にトヨタ側から電話があり、「必ずしもすべてがNVIDIA社になるわけではない」との説明を受けたという。

 つまり、トヨタは複数の技術候補を同時に検討しており、NVIDIA社に絞り込んだわけではないようだ。もちろん、デンソーを中心とする日本連合の技術開発にも期待しているはずである。