「静かなクルマ」と言えば、500万円を超えるような高級車の代名詞であり特権だった。だが、ここへ来て200万円台の普及価格帯の車両で静粛性が大きく向上し始めている。透けて見える自動車メーカーの思惑は、電動化時代への備え。静粛性向上に関する“技術の棚”の充実を図れれば、電動車両にも活用できる。一つひとつの取り組みは地味だが役に立つ。各社の主力車種の工夫を追った。

写真提供:トヨタ自動車、日産自動車、富士重工業
写真提供:トヨタ自動車、日産自動車、富士重工業

 「現行車から性能を最もジャンプアップさせたのは静粛性だ」。こう断言するのは、マツダの新型「CX-5」で開発責任者を務めた児玉眞也氏(同社商品本部主査)である。運転者に走る楽しさを提供するクルマづくりを追求してきた同社が、「同乗者の快適性もしっかり提供していきたい」(児玉氏)と開発方針を転換させた。静粛性向上に投じた開発工数や部材コストは「従来車とは比べ物にならない」(同氏)という。

 トヨタ自動車で車両設計・開発手法「TNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)」の開発を担当した小西良樹氏(同社Mid-size Vehicle Company MS製品企画ZEチーフエンジニア)は、「いいクルマの定義が変わってきた」と消費者の変化を感じ取る。「走る」「曲がる」「止まる」以外の要素が重要になってきたというのだ。

 小西氏は「ハンドリング性能だけが良くても世界では勝負できない」と現状を分析する。消費者が今、クルマを選ぶ際に特に重要視しているのが「静か」であることだ。同乗者と会話したり音楽を聴いたりと、車内空間で楽しめることを求めるようになってきているという。