欧州のHEVは環境より“走り”志向

欧州市場で日本と欧州の自動車メーカーがハイブリッド車(HEV)で火花を散らす。トヨタ自動車が環境性能を武器にする一方で、欧州勢は走りを追求する手段としてHEVを位置付け始めた。エンジンにモーターを付加することで、走り志向のユーザーを取り込む戦略だ。欧州にHEVは根付くのか。

 「欧州市場でHEVの販売が急速に伸びている。2016年のHEVの販売台数は、前年に比べて40%も増えた。当社が販売する車両の1/3がHEVになった。2020年にはこの割合を50%まで高める」──。

 トヨタ自動車のHEVが、欧州市場でじわり浸透してきた。同社の欧州法人Toyota Motor Europe(TME)社でPresident and CEO(最高経営責任者)を務めるJohan Van氏は、2017年3月7日に開いた「ジュネーブモーターショー2017」での記者会見で手応えを口にした(図1)。

図1 浸透し始めたトヨタのHEV
図1 浸透し始めたトヨタのHEV
(a)トヨタ欧州法人トップのJohan Van氏。(b)欧州市場におけるトヨタのHEVの販売台数。2016年は約29万台。ちなみに、西欧の自動車市場は全体で1500万台規模。
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 2016年、同社は欧州市場では約93万台のクルマを売った。このうち、約29万台がHEVだった。「Yaris(日本名:ヴィッツ)」や「オーリス」など小型車を中心にHEVを用意し、環境性能をアピールしてきた。新型SUV(スポーツ・ユーティリティー・ビークル)の「C-HR」に至っては、78%の購入者がパワートレーンにHEVを選択したほどだ。

Audi社やDaimler社の狙いは…

 トヨタの攻勢もあり、欧州でも市民権を得つつあるように見えるHEV。だが、欧州市場全体での普及率はまだまだ低い。米国の環境NPOであるICCT(国際クリーン交通委員会)によると、「2015年の段階で欧州では(駆動用モーターを持たない)エンジン車が95%以上を占める」という。

 こうした状況の中、今回のジュネーブモーターショーでは欧州の自動車メーカーが新型のHEVを相次いで発表した。注目すべきは、HEVの訴求ポイントが、トヨタが推す燃費低減やCO2削減とは違うところだ。

 背景にあるのは、欧州メーカーが燃費や排ガスの規制への対応手段としてプラグインハイブリッド車(PHEV)を主軸に据えた環境車戦略だ。モーター2個と遊星歯車を組み合わせるトヨタ式の“ストロングHEV”は「パス」していた。

 今回、欧州勢が目を付けたのがモーターによる瞬発力や力強い加速感だ(別掲記事参照)。これをHEVの新たな付加価値として提案しようと考えた。ドイツのAudi社やDaimler社が、“走り”志向のHEVを標榜するコンセプト車を仕上げた。エンジン車をベースとしながら、車載電池に蓄えた電力とモーターを使って、追加の駆動力をサポートする。