• 主な用途:電線、キャパシター、2次電池、燃料電池、構造材
  • 課題:数千円/kgへの低価格化

多くの自動車部品の性能を高める可能性を秘めるカーボン・ナノ・チューブ(CNT)。比較的安く造れる多層CNTの普及が先行したが、CNT本来の高い導電性や強度を実現する単層CNTの実用化が近づいている。日本ゼオンが2015年末に、単層CNTの量産工場を稼働した。課題だった価格は、大きく下がる見込みだ(図1)。

図1 単層CNTの低価格化が一気に進んでいきそうだ
図1 単層CNTの低価格化が一気に進んでいきそうだ
多層品に比べて高性能な単層CNTの開発が急速に進んでいる。現在は1kg当たり100万円程度するが、量産効果に加えて製造技術の進化で、2030年頃に炭素繊維と同等の価格を目指す。(イラスト提供:産業技術総合研究所)
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 単層CNTの価格は100万円/kgと現段階では高い。だが量産規模の拡大と製造技術の改良で、「2020年に3万円/kg」(日本ゼオン特別経営技監の荒川公平氏)にすることを目指す。CNTの研究を後押しする新エネルギー・産業技術総合開発機構は、2030年頃に炭素繊維と同等の数千円/kgになると期待する。

 CNTは、6員環の炭素原子が並んだ直径がnmオーダーと小さな円筒状の材料。円筒が1本なら単層品で、複数の円筒が重なったものが多層品である。多層品は単層品ほど導電性や熱伝導率が高くないものの量産しやすく、リチウムイオン電池の導電補助剤として普及し始めている。昭和電工などが量産する。

 一方で単層品は、多層品に比べてはるかに性能が高い。導電性や熱伝導性が優れることに加えて、質量はアルミニウムの半分ほどである。引っ張り強さは鉄の約20倍だ。量産するのが難しかったが、産業技術総合研究所が開発したスーパーグロース(SG)法と呼ぶ技術を使って日本ゼオンが量産工場を建設。低価格化のメドが立ち始めた。

 価格が安くなれば、応用先は格段に広がる。中でも自動車技術者が大きな期待を寄せるのが、電気自動車などに使う駆動モーターの電線だ。2030年頃の実用化を目指して研究が進む。

 導電性が高くて軽い単層CNTは、電線として理想的な材料である。「モーターには大幅に軽くする余地がほぼない」とされる現状を打破し得る。2030年以降になりそうだが、CNTのワイヤーハーネスが実現する可能性もある。

 単層CNTを電線材に使う研究成果として大きいのが、産総研が2013年に発表した単層CNTと銅(Cu)の複合材料である(図2)。単層CNTにCuをめっきしたもので、許容電流密度はCuの100倍、電気伝導度はCuと同程度を実現する。許容電流密度が大きければ、1本の電線に大きな電流を流せる。電線の質量を4割軽くできると見込む。

図2 自動車メーカーが期待するモーター用電線
図2 自動車メーカーが期待するモーター用電線
産業技術総合研究所の研究成果。単層CNTの内部に電気めっきでCu粒子を成長させて、Cu線と同等の電気伝導度を実現しつつ、4割軽くした。(出典:産業技術総合研究所)
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