愛知県豊田市の高岡工場は2016年の1年間、トヨタ自動車における工場IoT化の実証試験を進める場となった。その方針は独特だ。トヨタ生産方式(TPS)との融合を図り、「IoTは道具。モノや情報を受け取るのは人」(トヨタ自動車工程改善部長の大倉守彦氏)との考えに基づき、IoT活用の最終目的を人材育成に置く。

プレス加工の不具合を未然防止

 その一例が、ボディー部品をプレス成形する工程で見られる(図1)。さまざまな条件の組み合わせでppmオーダーの確率で発生するʻ1枚割れʼを防ぐ取り組みだ。従来、1枚割れは成形後の目視検査で発見していたため、流出防止は個人の能力に負うところが多かった。さらに、不具合の原因を調査し、対策を施すにしても、不良品を測定して素材や型、設備を調査するといった後追いになるため時間がかかる。

図1 プレス加工におけるIoT活用
図1 プレス加工におけるIoT活用
ブランク材の板厚や動摩擦係数を測定(加工点を視える化)し、しきい値によって判定することで、従来はppmオーダーで偶発的に発生していた「1枚割れ」を未然防止する。
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 そこで、プレス成形機に素材を投入する段階で、成形プロセスに大きく影響する特性値を計測するようにした。具体的には、板厚と動摩擦係数を測定するセンサーを取り付けた。この測定結果に基づき、設定したしきい値を超えないように管理することでプレス成形前に成否を判定し、不良品を造らないのが目標だ。

 さらに、自動的に収集できる大量のデータを人が考察・解析し、それを基に素材や設備を改善していくことも可能になる。つまり、この改善サイクルを通じて人を育てていく考えだ。

 生産拠点のグローバル化や多品種混流生産など生産の多様化が進み、生産現場での改善サイクルは年々短くなっている。しかも同時に複数の課題を解決しなければいけない。情報伝達スピードの向上も不可欠。全てをデータに任せるのではなく、「トヨタの強みであるTPS、ひいては人材力という強みをIoT化で高めていく」(大倉氏)のだ。