IoT端末や3Dプリンターなどでの用途拡大の機運を受けて、導電性ペーストやインク、特に銀(Ag)や銅(Cu)を用いる製品や開発品が増えてきた。焼成温度が室温から80℃と低くてもバルクの数倍程度に収まる抵抗率を実現する製品もある。比較のポイントは、抵抗率と焼成温度の他、厚みの制御や微細配線化、伸張性、量産性、そして価格と数多い。

 導電性ペーストやインクの材料の候補は実は多い。金属中最も導電率が高い銀(Ag)粒子と2番目の銅(Cu)粒子、3番目の金(Au)粒子の他に、炭素材料のカーボンナノチューブやグラフェン、導電性高分子である「PEDOT:PSS」などである。ただ、炭素材料は潜在力は高いものの、溶液への分散が容易ではなく、現時点ではペーストやインクにした時の導電性は低い。PEDOT:PSSは他の材料に比べて比較的柔軟で光透過性も高いため、導電性繊維として布に織り込むか、透明導電膜向けという使われ方が多い。しかし、導電性は低いため比較的大きな電流を流す用途には向かない。

†PEDOT:PSS=ポリスチレンスルホン酸(PSS)を添加したポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)。

 Auは価格が非常に高いため、非常に微細な配線向けなどやや特殊な用途限定になる。残るのがAgとCuだ。バルクの体積抵抗率は、20℃でAgが1.59μΩcm、Cuが1.68μΩcmと大差がない。一方、地金の価格はAgが約6万5000円/kg、Cuが約500円/kgで100倍以上もAgが高い。それでも最近までCuを用いた製品は少なく、導電性ペースト/インクの材料の大半がAgだった(表1)。3Dプリンターのベンダーが専用に利用している導電性インクもAgベースである(表2)。Cuは微細な粒子にすると非常に酸化しやすく、最近までほぼ無酸素の還元雰囲気下での印刷と焼成が必要だったからだ。

†バルク(bulk)=一般的には大きな塊のこと。ここでは、特殊加工をしていない地金といった意味。

†体積抵抗率=配線の電気抵抗値Rは長さLに比例し、断面積WtW:配線幅、t:配線の厚み)に反比例するというオームの法則の比例係数。ρとすると、R=ρL/(Wt)となる。単位は「Ωcm」がよく使われる。導電率σ(S/cm)はρの逆数。