10年間で総額110億米ドル(約1兆3000億円)以上の炭素繊維を米Boeing社の「787」と「777X」の機体に供給する──。2015年11月9日、東レは787向けに供給する炭素繊維「トレカ プリプレグ」を777Xの複合材主翼にも適用することで正式合意したと発表した。

 日本の炭素繊維が世界の航空機産業を激変させる。そのインパクトの巨大さを象徴する動きと言える。機体の大半がアルミニウム合金や鋼材で構成され、かつては「金属の塊」と言われてきたジェット旅客機。中型旅客機の「767」では機体質量の97%がアルミ合金や鋼、チタンで構成されていた。だが、787では機体質量の半分が炭素繊維強化樹脂(CFRP)などの複合材で構成されている(図1、図2)。

図1 Boeing社の中型旅客機「787」
図1 Boeing社の中型旅客機「787」
高い燃費性能と快適性が評価され受注を拡大している。
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図2 「787」の構造材の使用比率
図2 「787」の構造材の使用比率
質量比で半分が炭素繊維を中心とする複合材になっている。
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 飛行機を飛ばすのに欠かせない主翼・胴体などの1次構造材までもが炭素繊維になる。このような流れは、次世代機の777Xでも複合材が主翼に採用されるなど続いている。

 炭素繊維の機体への大胆な適用は、従来の航空機産業のサプライチェーンの常識を壊すことで生まれた。過去の航空機業界の常識では、Boeing社にとって東レは「ティア1(1次下請け)」「ティア2(2次下請け)」に材料を提供する立場で、直接取引するパートナーにはなり得なかった。