「航空機エンジンの投資回収サイクルは、機体よりもさらに長く、15~20年はかかる」。そう語るのは、IHI取締役常務執行役員航空宇宙事業本部本部長の満岡次郎氏だ。先行技術の開発も含めて投じた巨額の開発費用は、量産が始まって機体メーカーへの引き渡しが始まればすぐに回収できるわけではない。その後も量産体勢の整備に投資は必要となるからだ。そのため、メンテナンスにおける部品の供給や整備といったアフターマーケットまで含めて投資回収シナリオを描く必要がある。

民間航空機エンジンの比率が増加

 IHIが民間航空機エンジンの市場に参入したのは1983年。欧州Airbus社の「A320」などに搭載される米Pratt&Whitney社の「V2500」に、日本航空機エンジン協会(JAEC)の一員として参加した*1。その後、米General Electric社の「GE90」「CF34」「GEnx」にも参画し、小型から大型、超大型までを網羅した民間向け航空機エンジンの開発・量産事業を手掛けている*2。防衛省向けで始まった同社の航空機エンジン事業は、現在では売り上げの約7割を民間航空機向けが占めるまでになった(図1)。

*1 近年の航空機エンジンの開発は、国際共同事業として実施される。参加する各パートナーが出資比率に応じて開発費を分担することで、リスクを分散。利益もその比率に応じて分けあう。日本航空機エンジン協会(JAEC)は、このような開発プロジェクトに参加する日本メーカーを取りまとめる団体。IHIは、「GE90」を除いて、JAECを通じて民間航空機エンジンの開発プロジェクトに参加している。

*2 航空機エンジンは、機体と1対1で開発されるわけではない。1種類の機体、例えばBoeing 787では英Rolls-Royceの「Trent 1000」と米General Electric社の「GEnx」の2種類のエンジンが用意されているように、エアラインが選択できる場合も少なくない。

図1 IHIにおける航空機エンジンの売り上げ
図1 IHIにおける航空機エンジンの売り上げ
防衛省向け航空機エンジンの売り上げが頭打ちになる中、1990年代後半から民間航空機向けエンジンの比率が高まっている。
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