NAVIGATEOR'S EYE
今回の筆者は、日本とドイツの工作機械メーカーを統合し、業界売上高世界1位となったDMG森精機取締役社長の森雅彦氏です。それぞれの国の長所や課題などを踏まえつつ、「Industry 4.0(インダストリー4.0)」を見据えた取り組みのポイントについてご紹介をいただきます。 (鈴木俊吾)

 DMG森精機のグループ会社であるドイツDMG MORI AGは、ドイツのインダストリー4.0のプロジェクトに参加している。インダストリー4.0という言葉が出てくる前は、製造業が非常に盛んなドイツといえども工作機械の存在に光が当たることはほとんどなかった。ところが、インダストリー4.0がヒットしたことによって、さまざまなメディアなどで工作機械のような産業機械の可能性が語られるようになってきた。そういう意味では、工作機械メーカーであるDMG森精機にとってもビジネスチャンスが広がっている。

 インダストリー4.0に限らず、ドイツにおける物事の進め方はクラシック音楽と相通ずるところがある。それは、「全体の枠組みをきっちりと決めてから中身を詰めていく」ことだ。クラシック音楽では初めに楽譜を作る。極端にいえば、指揮者や演奏者は誰でもよく、それよりも構造的に美しい曲を作ることが重要なのである。インダストリー4.0も同様に、まず製造業全体の将来像を描いた上で、その実現に必要な技術や標準を定義している。こうした物事の進め方は、フレキシビリティーに欠けるものの、いったん枠組みさえ作ってしまえば、これほど使い勝手が良いものもない。

 インダストリー4.0と似た取り組みは米国や日本にも見られる。しかし、誤解を恐れずにいえば、インダストリー4.0には人類全体や地球環境を意識した高邁な精神が感じられる。工業化の恩恵を受けたい人はどんどん増えている一方、天然資源など世界のリソースには限りがある。そんな中で、ムダの多いものづくりをこのまま続けていたら、非常にまずいのではないか。インダストリー4.0の根底には、そうした思想がある。日本もそれに負けないぐらいの思想をもって臨まなければならない。