NAVIGATOR'S EYE
今回の筆者は、インドの科学技術・イノベーション政策に関する最新動向の調査や分析を実施されている、科学技術振興機構(JST)研究開発戦略センター(CRDS)の樋口壮人氏です。IT分野の強さを背景に製造業誘致に積極的なインドと日本との関わりについてご紹介いただきます。

 ITで経済成長を遂げてきたインドが、近年は製造業にも力を注いでいる。2014年に就任したナレンドラ・モディ(Narendra Modi)首相は、「メイク・イン・インディア(Make in India)」を掲げ、海外からの投資によってインド国内の製造業を活性化する方針を示した。海外企業からの技術移転だけではなく、若者の雇用創出も狙った取り組みだ。

 メイク・イン・インディアでは、自動車/バイオテクノロジー/オイル・ガス/鉄道/宇宙など25の産業分野を対象としており、それぞれの分野における投資やイノベーションの促進、知的財産の保護、製造インフラの構築に向けた新規優遇措置が含まれている。製造インフラとして想定されているのは、産業大動脈や産業クラスター、スマートシティーなどである。

 インド政府が重視しているのはビジネスのしやすい環境作りであり、そのために免許制度と規制の緩和を推進する。それによって、防衛/建設/鉄道など高付加価値産業での外国企業による直接投資(FDI:Foreign Direct Investment)の開放を目指している。例えば、過去にインドへの投資経験がない投資家を対象に、インド到着時から案内・支援する専門チームを設けるなど、投資しやすい環境を整備するという。

 メイク・イン・インディアによって実現する目標(ビジョン)として、インド政府は以下の7項目を掲げている。

[1]中期的に製造業の年間成長率を12~14%に伸ばす
[2]2022年までに国内総生産(GDP)に占める製造業の割合を25%に高める(現在は16%)
[3]2022年までに製造業で新たに1億人の雇用を創出する
[4]包括的成長に向けて、農村からの移住者と都市部の貧困層に適切な技能を持たせる
[5]製造業の国内での付加価値を高め、技術を深化させる
[6]インド製造業のグローバル競争力を強化する
[7]成長の持続可能性、とりわけ環境に関する成長の持続可能性を確実にする

 インドでは冷戦崩壊後、1990年代に経済が自由化され、IT産業が発展してきた。一方で、製造業は発展途上にある。そこでモディ首相は、グジャラート州首相時代に海外からの投資を呼び込むことで州の経済を成長させた経験を生かして、メイク・イン・インディアによって製造業を発展させ、若者の雇用を生み出そうとしているのだ。本稿では、このメイク・イン・インディアを中心にインドの産業政策を紹介していく。