NAVIGATOR'S EYE
今回の筆者は、前回に引き続き、技術系人材の育成や海外の教育制度の実態に詳しい日鉄住金総研の山藤康夫氏です。次世代のものづくりに向けて、ドイツの産業界と教育界が連携し、大学教育の場を活用してどのような人材を育成しようとしているのか。具体的な事例を交えてご紹介いただきます。

 前編(本誌2016年1月号)に続き、「Industrie 4.0」(以下、インダストリー4.0)を推進するドイツのユニークな教育制度について紹介していく。後編となる本稿では、高等教育や科学技術教育を中心に取り上げる。

実務に強い学生を育てる

 ドイツの教育制度は、高等教育にも目を見張るものがある。それは、伝統的な総合大学や工科大学だけではなく、実務セメスター(学期)のある「応用科学大学」や、企業と大学を行き来する「デュアルスタディー」専門の大学が存在することだ。

 応用科学大学(ドイツ語でFachhochschule、以下FH)は、日本語の文献では「専門大学」(ドイツ語直訳)と紹介されることが多い。ここでは、ドイツ語の英訳を尊重した「応用科学大学」を用いる。もともとは前編で説明した「デュアルシステム」*1を修了した生徒を受け入れる大学だったが、現在は進学コース(大学進学を目指すギムナジウム)からの入学者数がデュアルシステム組を上回っている。進学コース組には、入学前に一定期間の企業実習が求められている*2。従来は8セメスター制(1セメスターは半年)を採っていたが、欧州連合(EU)における学位国際標準化の流れに沿って7セメスター制に変更された。

*1 デュアルシステム 定時制職業学校での座学による授業(週1~2日)と、企業での実習実務訓練(週3~4日)を並行して進める制度。ただし、日数や訓練期間は職種によって異なる。大学進学を考えていない生徒や全日制職業教育コースに進学しない生徒は、デュアルシステムに進むことが義務となっている。

*2 筆者がかつて訪問したエスリンゲン応用科学大学の場合、入学前に2週間の企業実習経験(無給)が求められていた。