プロローグで紹介したパナソニック群馬大泉工場の取り組みは、決して特異な例ではない。目の前の眼鏡や小さなディスプレーに映し出された映像や情報を見ながら、製品を組み立てたり部材をピックアップしたり、声でデータを入力したり。そんなものづくりの現場が当たり前の未来が着実に近づきつつある。2015年に入って、多くの国内外の製造業がにわかに動き出している。

GoogleもSAPも注目する世界の潮流

 近年、頭に装着するヘッドマウントディスプレー(HMD)や小型カメラ、身に着けるセンサーなど、さまざまなウエアラブル・デバイスが続々と製品化されている。当初は民生用として注目されていたが、これらのデバイスを身に着けて仕事をすれば生産性や安全性を高められるとして、工場をはじめとするものづくり現場で活用しようとの動きが活発化している。

 身に着けて使うウエアラブル機器の最大の利点は、余計なアクションを起こすことなく、作業で両手がふさがるような状況でも、自然な動作で情報を操作・閲覧できること。ものづくりの現場は、その利点をフルに生かせるとして活用が期待されているのだ。

 これは世界的な潮流だ。例えば、世間の耳目を大いに集めながらも、プライバシーの問題やアプリケーションの少なさなどから開発が頓挫したとされていた「Google Glass」。Google社は捲けんど土重来を期して2015年内にも製品化するとみられている。公式発表こそないものの、業務用途をターゲットに据えて製品を投入するとの見方が米国中心に広がっている。

 ウエアラブル・デバイスを活用する環境も着々と整いつつある。例えばERP大手の独SAP社は、米Vuzix社の眼鏡型ウエアラブル・デバイス(スマートグラス)を採用したソリューションを提供している。具体的には、倉庫のピッキング作業支援用システム「SAP AR Warehouse Picker」、保守・保全などのサポート業務を支援する「SAP AR Service Technician」の2つを市場投入している*1。前者は、工場の倉庫におけるピッキング作業などを効率化するもの(図1)。広い倉庫において音声と拡張現実(AR)技術を駆使した映像でピッキングする部材が置いてある場所を案内、ピッキングした部材が正しいかどうかを画像認識やバーコードで確認する。危険な箇所や機器の故障なども音声と映像で作業者に通知するといった具合だ。

*1 本格展開は2016年から。

図1 SAP社の「SAP AR Warehouse Picker」の利用イメージ
図1 SAP社の「SAP AR Warehouse Picker」の利用イメージ
ピッキングすべき場所や部材がARによって目の前に表示される(a)。(b)はフォークリフトの故障をサポートセンターの指示を受けながら修理しているシーン。SAP社のイメージ動画から。
[画像のクリックで拡大表示]