簡単な実験がある。紙コップを2つ用意し、1つめの紙コップの底に振動を拾うマイクロホン、2つめの底に振動を発するスピーカーを貼る。マイクとスピーカーは「TECHTILE Toolkit」*1のアンプ装置で結び、紙コップの間で振動が伝わるようにする。スピーカー側の紙コップを手で持ち、マイク側の紙コップに炭酸水を注ぐ(図1)。すると、どうなるか。

*1 TECHTILE Toolkit
触感表現の研究や試行のためのオープンなツールキットで、慶應義塾大学大学院の筧康明氏、同じく仲谷正史氏(開発時)、同じく南澤孝太氏、山口情報芸術センターの三原聡一郎氏(開発時)が中心となって開発した。

図1 簡単な装置で触感をつくり出す実験
図1 簡単な装置で触感をつくり出す実験
底にマイクを貼った紙コップに炭酸水を入れる。マイクが拾った振動をもう一方の、空の紙コップの底に貼った振動スピーカーで再生。リアルなシュワシュワ感と重量感が空の紙コップを持つ手に生じる。触感はこのような簡易な装置でも扱えることが分かってきた(「TECHTILE Toolkit」を使用)。
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 この実験は、触覚技術を応用した製品のアイデアと開発を競うイベント「ショッカソン」を主催する、スパイスボックス(本社東京)のテクノロジスト・UXディレクターの山崎晴貴氏が「触覚応用について人に説明するときによく使う」ものだ。触覚に関する技術は、実際にさわってみないことにはなかなか分からないが、一度さわれば実感とともによく分かるものでもある。炭酸水の代わりに、ビー玉数個をマイク側の紙コップに入れてガチャガチャ揺らしてみる、というバージョンもある。

 スピーカー側の紙コップを持つ手には、炭酸水独特のシュワシュワ感だけでなく、液体が注がれたときの重量感さえ感じる。あるいは、ビー玉が中で跳ね回っているように感じる。言うまでもなく、実際にはスピーカー側の紙コップは空のままだ。 マイクの代わりに、あらかじめ“録音”した信号を用いれば、炭酸水やビー玉の触感は繰り返し“再生”できることになる。このような基礎的な仕組みでも、仮想的な触感を人に与えることができる。