200℃超で電子デバイスを動作させる技術や、熱を回収してエネルギーに変換する技術など、熱への新たな対応策の開発を電機・自動車メーカーが相次いで進めている。放熱だけの対策では、エネルギー効率のさらなる向上は見込めないからだ。熱を厄介もの扱いして逃がすだけの対策は、もう時代遅れ。熱を味方にする最新動向を紹介する。

 ガソリン車をハイブリッド車並みの燃費に─。軽自動車の燃費競争に火を付けたダイハツ工業が、さらなる改善に向けて着目しているのが熱だ(第二部を参照)。「減速時の回転エネルギーを使った効率改善では差異化に限界が来る。次は熱エネルギーも回収して効率を高める」(同社 開発部(滋賀テクニカルセンター) 先端技術開発 主担当員(課長)の金允護氏)。直近の目標を達成すると、40km/Lを上回る燃費も計算上は可能だ。

 パナソニックは、2015年9月、車載用アナログICのラインアップに200℃で動作するSi半導体デバイス技術(後述)を使った製品を加え、出荷を始めた。「近い将来、車載ICは、エンジンやモーターの近くの高温環境にも置かれるようになる」(パナソニック セミコンダクターソリューションズ 半導体ビジネスユニット 第一事業開発センター 第四事業開発部部長の藤阪孝誠氏)とみてのことだ。現在のデバイス動作温度(接合温度Tj)は最高150℃だが、今後、顧客の要求に合わせてパッケージやワイヤーボンディング、回路設計ライブラリーなども高温対応として、最高200℃に対応させる注1)。新技術を強みに高温対応品で年間数百億円規模の売り上げを目指す。

注1)パナソニックは、当面は、高温対応の特徴はうたわず、既存の温度帯での信頼性が高いことを強調してデバイスを販売していく。

 熱を意識した技術開発を進めているのは両社だけではない。高温対応デバイスや実装手法、そして熱を生かしてエネルギーに変える手法の開発を多くの企業が進めている。これまで逃がすことに主眼が置かれていた熱関連技術の開発は、高温を受け入れ、さらに生かす方向へと変わってきた(図1、図2(a))。

図1 “熱”が機器開発の要に
図1 “熱”が機器開発の要に
高温動作を可能にする技術や熱を制御/活用する技術の開発が活発になってきた。自動車やウエアラブル機器など応用機器側の要求も強くなっている。(図:本誌、写真:上からAnalog Devices社(左上)、日本航空電子工業(右上)、パナソニック(左下)、ダイハツ工業(右下))
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図2 200℃超への対応が目前に
図2 200℃超への対応が目前に
(a)車載電子機器デバイスの環境温度の最高値(赤線)と最低値(青線)の経緯と今後の見通しについてタムラ製作所がまとめた資料に、自身の発熱によって50℃高温になると仮定したデバイス温度(黄線)を本誌が加筆した。デバイス自身の発熱による高温化はパワー半導体や高速プロセッサーでは一般に数十℃。今後は、車載電子機器が200℃を超える高温に耐えるデバイスとその実装技術が求められる。(b)200℃超の高温対応デバイスと実装技術の開発も、自動車や電子部品・部材のメーカーが進めている。産業技術総合研究所が開発した250℃で動作するパワーモジュールのイメージ。((a)の図:同社と本誌、(b)の図と写真:同研究所)
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