スマート工場では、以前と比較にならないくらい膨大なデータが生み出される。ビッグデータによる恩恵も大きいが、一方で大事なデータを必要なときに見つけられなくなるという懸念もある。そこで、工場のスマート化を目指す企業に広がっているのが「FOA(Flow Oriented Approach)」という手法だ。大量のデータを単純に分析するのではなく、現場の使いやすい形に切り出すというアプローチが珍しい。

ITは現場を表現できているか

 FOAは、元ブリヂストン常務執行役員で現在はsmart-FOA(本社東京)代表取締役社長の奥雅春氏が考案した手法である。その大まかなコンセプトは、「製品が完成した」「不良品が発生した」といった工場内の“イベント”について、生データのまま保管するのではなく、そのイベントに関する背景や説明のデータを加えた「情報短冊」として保管・共有することで、情報の価値を高めるというものだ(図1)。例えば、不良品の発生であれば、発生した製品や担当者、時間、場所といった事実情報に加えて、その不良品が及ぼす影響や関係する生産設備など背景や説明のデータを列挙したものになる。

図1 FOAのコンセプト
図1 FOAのコンセプト
“イベント”ごとの生データだけではなく背景データや説明データと関連付けた「情報短冊」を作成し、ネットワークに流す。そうすることで、経営者や管理者などがそれぞれの立場で問題の内容や原因を理解できるようになり、次の行動を起こしやすい。smart-FOAの資料を基に作成した。
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 「生データを分析しても相関関係しか分からないが、背景データや説明データを加えて5W1Hを構造化した情報短冊からは因果関係が見えてくる」(奥氏)。この情報短冊を共有することによって、経営者や管理者、現場担当者などがそれぞれの立場で問題の因果関係を類推できるので、適切な行動を取りやすくなる。単純な分析にとどまらず、行動や組織改革といった次の展開にデータを生かせるのだ。