三菱自動車とスズキは再発防止策を発表し、行動に移し始めた。「企業体質」や「リソース不足」への方策は、トヨタ自動車や富士重工業などの先進事例が参考になる。国土交通省も不正の抑止力に重きを置いた新しい審査方法を、2016年秋にも導入する。失墜した業界の信頼を取り戻せるか。クルマづくりの本質を再考する時が来た。

 「山下さんなら変えてくれるかもしれない」──。三菱の現役技術者は、絞り出すような声で最後の希望を口にした。彼が望みを託す「山下さん」とは、2016年6月24日付で三菱の開発部門トップに就いた山下光彦氏を指す。山下氏は日産自動車で2005年から2014年まで副社長として開発部門を率いた人物である。自動車開発をよく知る同氏が、どこまで三菱の“悪しき伝統”にメスを入れられるかに注目が集まっている。

 不正の原因は、単純化すると「企業体質」と「リソース不足」に集約できる。不正を防止しつつ、限られたリソースで競争力の高い製品や革新的な製品を開発・供給していくには、経営層の役割と社内のコミュニケーションがこれまで以上に重要になる。経営層が現場の実力を十分に把握し、企業体力に見合った事業領域を選定することが不可欠だ。

 不正防止に向けた第一歩は、開発現場の状況を正しく理解することである。その上で、適正な期間や性能などの目標を設定し、状況に応じて柔軟に目標を修正していける業務プロセスを構築する。企業体質を見直し、現場を疲弊させずに持てる力を有効に引き出せるような設備や仕組みを整備していくことがこれまで以上に重要になってくる。