2016年7月某日、トヨタ自動車とマツダ、そして三菱自動車のOB技術者が膝を突き合わせた。自動車業界で起こった不正の背景や原因を整理しつつ、今後の方策を議論するためだ。目標に到達できない際の対応や、不正を起こさせない組織とはどのようなものか。実体験に基づく各社の実態が多く明かされ、気付けば4時間半を超える座談会になっていた。

――マツダで「ロードスター」の主査(チーフエンジニア)を務めた貴島孝雄氏と、トヨタで30年間エンジン開発に携わった藤村俊夫氏、三菱で電気自動車(EV)「i-MiEV」の開発責任者だった和田憲一郎氏に集まっていただいた(図1)。まず、三菱やスズキの不正に対する、率直な感想を聞きたい。

図1 4時間半に及んだ座談会
図1 4時間半に及んだ座談会
ホワイトボードを使って説明するトヨタOBの藤村俊夫氏と、その右に三菱OBの和田憲一郎氏、マツダOBの貴島孝雄氏。本誌編集長の林(左端)が話を聞いた。
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和田 「まさか」というのが最初の印象だ。すぐに同僚だった三菱の関係者に聞いてみたが、皆「よく分からない」といった反応だった。特に設計など開発担当だった人間は、私を含めて「高速惰行法」という言葉を初めて聞いたくらい。

 認証段階での燃費計測のやり方は専門領域で、思い返すと燃費計測の現場に立ち会ったことはなかった。届け出資料用の燃費計測は、400m走に例えると最終コーナーを回った後の380mくらいのところ。そこで「何とかしろ」と言われても何ともならない。

貴島 私も20年以上開発を担当してきたが、技術者として目標まで到達したいという気持ちは理解できる。検討の中で、「ばらつきの中から一番いいデータを選ぼう」という提案も出てくるかもしれない。その時に、「危ないぞ」と言って止めるかどうか。そこの違いだろう。

藤村 企業というのは、コーポレートガバナンス(企業統治)がしっかりしていることが大前提にある。その上できちんと法令を順守し、社会的責任をどう果たすかが重要だ。この観点で考えると、個人的な見解だがドイツVolkswagen(VW)社と三菱はしっかりできていないように思える。消費者に目を向けた開発をしておらず、自社の利益を最優先にしている印象を持つ。

 一方スズキは、社会的責任は果たしていると思う。だが、法令順守の考えに甘さがあったのだろう。国土交通省に「当社が採用している『積み上げ法』の方が、走行抵抗値を正確に把握できるので認めてくれませんか」と事前に相談すればよかったと思う。