テニスのプレースタイルは近年、大きく変わってきている。以前は、サーブ&ボレーのように短時間で決着することが多かったが、ベースライン付近から打ち合うストローク戦が増えている。その中で、いかに精度の高い攻撃的な球を打てるかが勝負の行方を大きく左右する*1。そこで求められるのが、スピン性能の向上である。

*1 長時間の試合に耐えられるように、ラケットの軽量化や振り抜きの良さ(空気抵抗の小ささ)なども求められている。

ストリングの動く方向を縦横で変える

 ヨネックスが開発したテニスラケット「VCORE」シリーズの2製品でスピン性能の向上についてみてみよう(図1)。スイスのStan Wawrinka選手が使う「VCORE Duel G」は、バウンド後に加速する重いスピンボールを可能にしたラケット。ストリングを通す穴を保護する部品であるグロメットを工夫した。具体的には、ラケット側面部のグロメットについて、3本のリブを配置してストリングとの密着度を高め、穴の周囲の肉厚を大きくしてストリングの有効長を大きくしている。

図1 ヨネックスの「VCORE」シリーズにおけるスピン性能の向上
図1 ヨネックスの「VCORE」シリーズにおけるスピン性能の向上
「VCORE Duel G」では、フレームの両サイド上部においてグロメット(ストリングの穴を保護する部品)の形状を改良。3本のリブを追加し、穴の周りの肉厚を大きくした。これにより、インパクト時にストリングがずれてエネルギーをロスするのを防ぐと同時に、ストリングの有効長を長くすることでボールの変形量が多くなり、特にバウンド後のスピン性能が高まる。一方、「VCORE Si」では、グロメットの穴形状を長円とし、縦ストリングと横ストリングで向きを90°変えた。これにより、ボールとの接触時間が長くなり、スピン性能が向上する。
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 密着度が高まることで、インパクト時にストリングが滑って失われるエネルギーが減り、ボールの変形量が増える。有効長、つまりストリングの可動域が長くなることで、反発性能が向上する。その結果、従来モデルの「同Tour G」に比べて、バウンド直後の回転数は約8%増え、バウンド後のボールの高さも14%向上した*2

*2 VCORE Duel Gでは本文中で紹介した他、[1]ガラス繊維にカーボンナノチューブを加えた素材をフレームの袖部からシャフト上部に配置してラケットのキックバックスピードを向上、[2]ラケットの横ストリングのパターンを先端方向の本数が増えるように変更し、ホールド性を向上、といった機能も付加している。

 一方、ドイツのAngelique Kerber選手が使う「VCORE Si」は、ストリングを通す穴の形状が特徴的だ。穴を楕円形状とすることでストリングの可動域を広げていることに加えて、ラケットの縦方向のストリングを通す穴と横方向のストリングを通す穴で、楕円の長径方向を変えている。ラケットの左右に配置する横ストリング用の穴は長径がフレーム面と垂直。ラケットの先端とグリップ側に配置する縦ストリング用の穴は長径がフレーム面と平行だ。

 スピン性能に影響するのが、縦ストリングの動き。ストリングがフレーム面と平行に大きくたわんで戻ることで、ボールにスピンをかける効果が高まるのだ。フレーム面に対して垂直方向に動きやすい横ストリングは、ボールのホールド性能を高める効果がある。これらによって、下から上に振るようなワイパー系スイングの場合で、ボールとストリングの接触時間が8%長くなり、スピン性能が7%向上した。