マイコンや無線通信回路のクロック源、タイマー回路の基準時間として使われている水晶発振器。その代替を目指すMEMS発振器が勢いづいている。ここ数年、新規参入したMEMS発振器メーカーが相次いで事業から撤退したが、一部はしぶとく事業を続け、安価で小型という特徴を強みに発振器市場での存在感を増すまでになった。
電子機器のクロック源として標準的に使われている水晶発振器を、新型発振器のMEMS(微小電子機械システム)発振器が置き換え始めている。2015年にMEMS発振器最大手の米SiTime社が、比較的安価な水晶発振器のSPXO(Simple Package Crystal Oscillator)と代替品を合わせた市場で、初めてトップのシェアを獲得した(図1)。
MEMS発振器は、水晶片の代わりにSi(シリコン)片を共振させて安定した周波数を得る。水晶発振器が水晶片の機械加工とセラミックパッケージへの組み込みを必要とするのに対し、MEMS発振器はICと同じ半導体プロセスと低コストの樹脂パッケージが使えるため、小型で安価にしやすい。2006年に市場に初めて登場し、10年をかけてようやく一定の存在感を示すまでに至った。
水晶発振器全体の市場は大きく、SiTime社が置き換えたのは全体の数%にすぎない。それでも、MEMS発振器には水晶発振器よりも勢いがある(図2)。水晶発振器など発振器市場全体の出荷数量で見た伸び率は、ここ数年ではプラスのときでも年率平均で数%。一方、「MEMS発振器の市場は今後年間平均65%で成長するとの予測がある。SiTime社の出荷数量は2015年に対前年の2倍になった。今年も2倍のペースを維持する見込みだ」(同社Executive Vice President,MarketingのPiyush Sevalia氏)。同社のMEMS発振器はこれまでに1000社以上に採用されたという。
発振器市場では、水晶発振器とMEMS発振器のほか、これらより一部特性で優れるシリコン発振器やずっと高精度の原子発振器が競い合っているが、MEMS発振器の勢いは図抜けている。