「PalmPilot」などの携帯機器を生み出しモバイルコンピューティングの世界を切り開いたJeff Hawkins氏。今、同氏は脳の動作原理を明らかにし、知的な機械を作るために、自ら創業したNumenta社で研究を進めている。深層学習とは異なるアプローチで新産業を立ち上げようと情熱を燃やす同氏に、最新の研究成果と将来のビジョンを聞いた。

ジェフ・ホーキンス
ジェフ・ホーキンス
技術者かつ連続起業家(シリアルアントレプレナー)で、科学者、投資家、作家でもある。生涯にわたって神経科学と大脳新皮質の理論を追い求めてきた。1979に米Cornell Universityを卒業後、米Intel社などで働く。米Palm社やHandspring社を創業し、「PalmPilot」や「Treo」を開発。2002年にRedwood Neuroscience Instituteを設立して、新皮質の情報処理の研究に取り組む。2005年にNumenta社を創業した。(写真:林幸一郎)

──2004年の著書1)で脳の動作を説明する理論を提唱されました。その後の研究の進捗は。

(写真:林幸一郎)
(写真:林幸一郎)

 あの本で示したのは、人間の知性が宿る大脳新皮質の働きを理解するためのフレームワークだ。あれからずっと、理論の詳細を詰めてきた。6年ほど前からかなりの進歩を感じられるようになり、今年に入ってさらに進歩した。理論の細部が明確になってきた。

 それが人工知能の分野にどう影響するかは別の話だ。我々の一番の目標は大脳皮質の動作を理解すること。それが、知性を持つ機械を実現する上で極めて重要だと確信している。みんながそう思っているわけではないが、私はこれが明確かつ最短のルートだと思う。ただし、人のような機械ではなく、知的な機械を作りたいんだ。

 これまでに、新皮質を構成する6つの層のうち第3層で何が起きているのかを正しく理解できたと考えている。その部分をソフトウエアに実装して製品に利用している。脳は神経細胞(ニューロン)からできていて、実際のニューロンは非常に複雑だ。何千ものシナプスや樹状突起があって、活発に情報処理をしている。現在、実用化が進んでいるニューラルネットワークは本物と比べて単純すぎる。我々が手掛けているのは、本物のニューロンの動作の解明だ。