ヒアラブル端末、特にTWSイヤホンでは、耳に入るような非常に小さな筐体内に、音楽再生以外の多くの機能を実装し、付加価値を高めることが求められている。これに対する各メーカーの戦略は、センサー1つに複数の機能を持たせることだ。どのような機能が可能になりつつあるかを紹介する。

 「一度、ワイヤレスイヤホンを使ったら、もはやケーブル付きのイヤホンには戻れない」─。ある利用者は、その使い心地をこう語る。左右のイヤホンを接続するケーブルがない完全ワイヤレスステレオ(TWS)イヤホンはさらに、使用感を大幅に変えそうだ。

課題は高付加価値と小型化の両立

 ただし、TWSイヤホンは、開発の技術的ハードルも高い。課題は大きく2つある(図1)。1つは、音楽再生を超える付加価値をどこまで高められるか。もう1つは、耳に装着する以上、寸法に強い制約があることである。

図1 要素技術の開発が全体の改善につながる
図1 要素技術の開発が全体の改善につながる
ヒアラブルの開発課題は大きく2つ。付加価値を高めるためのセンサーや音響技術の開発と、超小型化を利便性と両立させる実装技術の開発である(a)。これまで多くの例で、一方の課題が解決に向かうと、もう一方の課題解決も前進してきた。付加価値を高める要素技術同士でも、同様な正の循環が起こっている(b)。
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 2つの課題は互いに無関係ではなく、一方が進展するともう一方も改善する。例えば、TWSイヤホンの付加価値を高める素子や生体信号センサーは、1つで複数の機能を実現できるものが多い(図1(b))。用途や機能ごとにセンサーを用意するのではなく、1つのセンサーで複数の機能を実現できれば、多機能化と小型化を同時に達成できる。

 具体的には、これまでのTWSイヤホンで使われてきた主な素子やセンサーは、大きく3種類ある(図2)。(1)スピーカーやマイク、(2)LEDやレーザーと受光素子(PD)からなる赤外線センサー、(3)加速度/ジャイロ/地磁気センサーである。いずれのセンサーでもTWSイヤホンの寸法を維持したまま付加価値を高めるため、従来の使い方を大きく超えるさまざまな用途が次々と“発掘”されている。

図2 同じ素子からさまざまな使い方が生まれる
図2 同じ素子からさまざまな使い方が生まれる
ヒアラブルの技術開発で生まれてきた、既存のセンサーの新しい使い方の例を示した。機能ごとに新たなハードウエアを実装するのではなく、同じハードウエアの別の使い方を追求することで、小型化と多機能化を両立している。
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