コンピューターにより良い設計案を探索させる「ジェネレーティブ・デザイン」や人工知能(AI)を、設計者が使いこなす時代が近づいている。そこで重要になるのは、どのように案を探せばよいかを的確に指示することだ。設計上で解決すべき問題を論理的に表現することがより必要になり、設計対象で何が起きているかを深く理解するという昔ながらの基本が、依然としてものをいう。

 設計者が製品で実現したい仕様と設計上の制約を入力すると、コンピューターが目的に合った設計案を自動的に作成する、という新しい設計が語られるようになった。設計者の仕事は何を実現するべきかを決めることになり、どうすれば実現できるかはコンピューターの役割になる、と考えられている。

 それは必ずしも遠い未来のことではない。既に、それに近い設計に取り組み始めている企業がいくつも現れている。

コンピューターが設計案を提案

 「これまで、リブを縦横に“井”の字に入れる前例をそのまま踏襲していた。それを顧みる時間もなかった。そこを何とかしたかった」〔キヤノントッキ(本社新潟県見附市)商品開発推進センター機構設計部設計推進室の太田明氏〕。同氏が語るのは、有機EL方式などのディスプレー・パネルの製造装置に用いる真空チャンバーの扉の設計についてである。もともと質量が860kgもある部品であり、軽量化すれば製造期間短縮、材料コスト低減の効果も大きい。

 しかし、これまでの設計を改めるにしても、どのような方向に考えればよいか、すぐに決められるものではない。有機ELディスプレーはすぐにコモディティー化する恐れがあるため、メーカーは一刻も早く生産を始めたいと考えている。製造装置メーカーへ求められる納期は極めて短く、長い時間をかけて設計してはいられない。それに、軽量化によって得られる効果が大きくても、改善にかける労力やコストが釣り合わないほど肥大化してしまったら、努力の意味がなくなってしまう。そこで、同社はITの力を借りてみることにした。