Mercedes-BenzとBMW、Audiの“ジャーマン3”が伝統に磨きをかける。顧客が抱くブランドへの期待を守りつつ、新機能を盛り込んだ車両を開発。次なる競争軸は電気自動車(EV)とサービスだ。新興の米Tesla社とも正面からぶつかる。伝統と革新が次のブランドを生み出す。

 高級車ブランドにはそれぞれ、消費者が期待するイメージがある。ドイツDaimler社のMercedes-Benzであれば「伝統的な重厚感」、同BMW社は「軽快な走り」、同Audi社は「都会的なデザイン」といったところだろうか。

 ジャーマン3は年間で200万台規模の高級車を販売するようになった。ここ10年で規模が2倍になる中で、消費者の期待を裏切らないクルマ造りに取り組む。小型車からSUV(スポーツ・ユーティリティー・ビークル)まで、幅広い車種を用意する。そこにブランドとしての統一感を持たせなければならない。伝統的なセダンだけを造っていれば良かった時代はとうに過ぎた(インタビュー参照)。

 今のところ、ドイツ3社の業績は安定している(図1)。排ガス不正の影響で落ち込んだ2016年のAudi社は例外として、8%以上の営業利益率を確保し続けている。伝統にあぐらをかかず、攻守のバランスを見極めながらブランドを醸成させてきた結果だ。

図1 安定成長を続けるBMW社とDaimler社
図1 安定成長を続けるBMW社とDaimler社
BMW社やDaimler社は8%以上の営業利益率を出し続けている。Audi社が排ガス不正問題で急減速した一方で、Volvo社は成長軌道に乗せた。グラフはフォーインのデータを基に作成した。業績は、二輪車や商用車も含む数値を使っている。
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 Mercedes-Benzの車両開発を例にとると、“攻”の代表格は小型車「Aクラス」で、“守”は「Cクラス」や「Eクラス」の中核セダンとなる。興味深いのは、開発プロセスが違う点だ。既存顧客が“守”のC/Eクラスは、期待を裏切らないことが何より大切になる。

 そこで、「開発の起点となる商品企画の最上流で、既存ユーザーの不満や新モデルへの要望などを開発陣全体で共有するプロセスを設けている」(ローランド・ベルガーパートナーの貝瀬斉氏)という。一方、“攻”として新規顧客の獲得という役割を担うAクラスの開発では、このプロセスを踏まない。