3車種全てを軽量化する板厚
マツダは、基本的な設計思想と基本構造を複数車種にまたがって共有する「コモンアーキテクチャー(基本骨格)構想」による製品開発を進めている。このコモンアーキテクチャー構想を支援するための多目的設計最適化を、宇宙航空研究開発機構(JAXA)と共同で研究し、「HPCI戦略プログラム 分野4 次世代ものづくりシンポジウム」で発表した*1。3車種について車体構造部品の板厚の共通化と軽量化の両立を目指して計算したところ、大幅に軽量化を図れる可能性のある知見を得た。
*1 自動車工業会デジタルエンジニアリング部会と富士通の協力(構造解析ソフト「LS-DYNA」の「京」でのチューニングなど)を得た。
これまで、1部品や1製品の範囲で最適な解を求める計算の例はあったが、複数製品にまたがって一括して計算する例は珍しい。
「CX-5」「アテンザ」「アクセラ」が題材
スーパーコンピューター「京」を用いることで、1万6320回もの衝突シミュレーションを実行。大規模な計算力があってはじめて実現可能な計算といえる。ただし、将来「1PFLOPS級のスーパーコンピューターが自社で利用可能になれば、1カ月で最適解が得られるなど、設計支援への応用が十分に可能」(マツダ技術研究所先進ヒューマン・ビークル研究部門アシスタントマネージャーの小平剛央氏)であることも分かった*2。
*2 1PFLOPSは千兆浮動小数点演算/秒。「京」は約10PFLOPS(LINPACKベンチマークによる)の計算能力を持つ。
研究では、既に量産を開始している3車種について、車体構造部品(1車種当たり74部品、合計222部品)の板厚をなるべく多くの部品で共通化することと、その合計質量をなるべく少なくすることを目的として計算を実施した(図1)。ただし、設計案は所定の衝突安全性能を有すること、所定の車体剛性や騒音・振動(NVH)特性を示すことが条件になる。そこで、計算の過程(30世代にわたる進化計算)で生成した1360個の設計案で、それぞれ3車種×4衝突形態の12種の衝突シミュレーションを実行した*3。
*3 目的関数の空間(板厚を共通化する部品数×部品合計質量)を一様にカバーするように設計案を生成し、これを進化アルゴリズム(JAXAの「Cheetah」)で30世代にわたって進化させつつ、衝突シミュレーションを実行した。
これら全ての計算量は約525万ノード時間(1ノード時間は1ノードを1時間使う計算量)。約9000ノード(「京」の約10%、約1PFLOPSに相当)を占有すれば、1日24時間休みなく計算させたとして、約24日で終えられる計算量だ*4。
*4 1件の衝突シミュレーションは16ノードで並列計算できる。3車種×4衝突形態で1設計案当たり192ノード、さらに進化計算の過程で最大48設計案の計算を9216ノードで並列計算できる。8万8128ノードを有する京の約10%に相当する。