「設計上、従来は破れなかった限界を破れる可能性がある」(東京大学生産技術研究所革新的シミュレーション研究センター センター長・教授の加藤千幸氏)。設計技術者の仕事は、ユーザーにどんな価値を提供するかを決め、製造方法を踏まえて価値の実現方法を経験や実験結果から導き出し、ユーザーが利用する場面を推測しつつ相反する要件をなるべく高いレベルで調和させること。その設計のプロセスと、それによって生み出される製品が今、大きく変わろうとしている。

3つの変化で設計が変わる

 設計と製品が変わる要因は、製品の生産技術、設計支援技術、製品の運用技術の全てで同時に生じている(図1)。まず、生産技術面では、3Dプリンティングの進化によって、造れる形状についての制約がなくなってきたことが、設計と製品に大きな影響を与え始めた。従来の製造方法では考えられない形状で、画期的な機能と性能を実現する試みが進んでいる。

図1 設計を変える3つの動き
図1 設計を変える3つの動き
生産技術(3Dプリンティング)、設計支援技術(Computational Design)、運用技術(Internet of Things)の変化が設計を変える。
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 設計支援技術では、コンピューターの計算能力の向上が設計の質に影響を及ぼすようになった。何千、何百という設計案のバリエーションを生成して、その性能や機能を評価し、良い設計を追求するComputational Designが可能になりつつある*1。そして、製品を運用する場面では、IoT(Internet of Things)の発展によって、稼働状況の情報を逐一得られるようになっている。

*1 コンピューターによって設計案を生成することを指す。Generative Design、Algorithmic Designと極めて近い概念と考えられるため、ここでは多目的設計探査を含めて「Computational Design(コンピュテーショナル・デザイン)」と呼ぶことにする。

 つまり、製造方法は従来の制限を気にする必要がなくなり、価値の実現方法はコンピューターがぼう大な計算によって提示してくれる。そして、利用場面は設計者が推測することなく、現実の状況をそのまま知ることが可能になる。これらにより、これまでにない設計の姿が、現実のものになりつつある。