クルマの電源のほとんどにはスイッチング方式のコンバーターが採用されている。減速回生システムや48Vハイブリッドシステムには非絶縁形コンバーターが用いられていた。一方、電気自動車(EV)の車載充電器などに用いられるのが絶縁型コンバーターだ。その中で今回はフルブリッジコンバーターに着目し、その作動原理について解説する。(本誌)
現在、クルマの電源には小型化と幅広い入力電圧の要求により、ほぼスイッチング電源(SMPS:Switched-Mode Power Supply)が採用されている。今後のハイブリッド車(HEV:Hybrid Electric Vehicle)や電気自動車(EV:Electric Vehicle)の時代には、電源のさらなる小型化と高効率化が求められていく。こうした要求に応えるために必要なのが、スイッチング電源の主要回路となる絶縁型コンバーター†の知識である。今回は特にフルブリッジコンバーターに着目して、その作動原理について考える。
†絶縁型コンバーター=スイッチング電源の中で、絶縁を必要とする用途に用いられる。安全規格により 60Vを超える用途には絶縁が必要となる。
高周波で変換するスイッチング電源
電源とは一般に、入力電力に対して何らかの変換をして出力する装置である。クルマの場合、オルタネーターは基本的に交流を出力し、蓄電池などは直流を蓄えるため、この間で交流/直流変換が必要である。このために用いられるのが、いわゆる安定化電源である。
基本方式は大きく分けて、トランス方式(シリーズ方式)とスイッチング方式がある。前者は、低周波の交流電圧をそのままトランスで電圧変換した後に整流平滑し、入力電圧の変動に対してシリーズレギュレーターで出力を安定化するもの。後者は、高速スイッチング回路により高周波交流にした後にトランスを通して電圧変換し、整流平滑を行う。
前者のトランス方式は、発生ノイズ†の少なさや応答性の面で優れている。しかし、トランスが大きく重いことや電力効率が悪いことなどから、ごく簡易的なACアダプターなどの用途で用いられる。後者のスイッチング方式は高周波で変換を行うために、トランスが小さくて軽い。また、幅広い入力電圧に対応可能であり、効率も高い。一般に電子機器では安定した電力供給が求められるため、電源には交流/直流の変換だけでなく、安定性が必要である。従って、現在、車載用ではスイッチング電源が主流になっている。
スイッチング電源は、入力電力を整流素子と平滑コンデンサーで直流に変えた後、半導体スイッチ素子のオン/オフでいったん高周波交流としてから高周波トランスで変圧し、フィルター回路やダイオードなどを用いて整流平滑して出力する回路である(図1)。高機能化された多くのスイッチング電源では、出力電力が一定に保たれるように、制御回路を用いて半導体スイッチのオン/オフ時間比率(デューティー比)をフィードバック制御する。高周波トランスに対して入力側を1次側、負荷側を2次側と呼ぶ。