「日経エレクトロニクス」2017年5月号のFundamentals「クルマを進化させる電源技術[第1回] Liイオン電池やキャパシターを用いた、HEVやEVの減速回生システム」を2回に分けて先行公開した記事の後編です。

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電気二重層キャパシターを活用

 マツダの減速エネルギー回生システムであるi-ELOOPは、Liイオン電池ではなく日本ケミコンの電気二重層キャパシター(EDLC:Electric Double Layer Capacitor)を用いている。その作動概容を図7に示す。

電気二重層キャパシター(EDLC:Electric Double Layer Capacitor)=電気二重層コンデンサーとも呼ばれる。両極それぞれの表面付近で電気二重層という物理現象が発生することで大容量を実現するコンデンサー。応答性が高いことから、鉛蓄電池をはじめとした従来型の2次電池の代替技術として期待されている。
図7 i-ELOOPの作動概要
図7 i-ELOOPの作動概要
減速時に回生によりEDLCと、DC-DC変換器を介して鉛蓄電池を充電する(a)。加速時や通常走行時にはオルタネーターを止めて、エンジン負荷を低減し、EDLCからDC-DC変換器経由で電装品へ給電する(b)。

 減速時には、回生により発電した電力でEDLCを充電する。この電力はDC-DC変換器を介して、鉛蓄電池にも供給される。加速時や通常走行時にはオルタネーターを休止させて発電によるエンジン負荷をなくし、電装品への給電はDC-DC変換器経由でEDLCから行う。

 注目技術の1つはEDLCで、14Vから25Vまでの充電時間はわずかに約8秒と短い。この短時間の回生により、40A/14V(560W)の場合で電装品に約1分間の電力供給ができる。容量は10.4Ah(37.5kJ)と小さく、プリウスの約0.8%、エネチャージの3割ほどである。しかし、ごく短時間で充電できるために、「1回の減速で急速に電力を蓄積して給電、また次の減速で充電…」というサイクルで用いることにより、十分な能力を発揮する。

 なお、EDLCはコンデンサーであるため、通常の電池とは異なり、放電時には電圧が大幅に低下する。この状態からの充放電を繰り返すことになるため、オルタネーターには電圧をある範囲内(i-ELOOPでは12~25V)で上下できる特殊な可変電圧オルタネーターが用いられている。

 もう1つの注目技術はDC-DC変換器で、降圧型コンバーターを4相のマルチフェーズに並列したものが採用されている(図8)。多相化することで大電流に対応できるほか、ノイズも低減できる。このDC-DC変換器の効率化は非常に重要なテーマであり、回を改めて述べる予定である。

図8 i-ELOOP用DC-DC変換器の特徴
図8 i-ELOOP用DC-DC変換器の特徴
マツダのi-ELOOPのDC-DC変換器は降圧型コンバーターを4相のマルチフェーズに並列する。多相化することで大電流に対応でき、出力波形が平滑化してノイズも低減される。
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