今回は、インダストリー4.0(I4.0)で実現可能になる「アプリケーション・シナリオ」をさらに詳しく見ていきたいと思います。I4.0では、リファレンス・モデルとなる「Reference Architectural Model Industrie 4.0(RAMI4.0)」や、「Administration Shell(管理シェル)」と「アセット」から成る「I4.0コンポーネント」が注目されていますが、アプリケーション・シナリオもI4.0の中で重要な役割を担っています。

 そもそも、I4.0のような製造業のデジタル化を検討する目的は、それによって一層の価値を創出することです。それには、よりビジネス的な視点からデジタル化が可能にする世界を理解し、その実現に向けて現状で足りない要素を把握する必要があります。そのような検討を行うベースとなるのがアプリケーション・シナリオです。

4つの付加価値プロセス

 前回、Plattform Industrie 4.0(Plattform I4.0)のワーキンググループ2(WG2)において9つのアプリケーション・シナリオが取りまとめられていることを紹介しました(表)。Plattform I4.0では、製造業における付加価値プロセスは大きく4つに分けられると考えています(図1)。

表 アプリケーション・シナリオ
製造業のデジタル化を議論する上でベースとなる9つのシナリオがある。
表 アプリケーション・シナリオ
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図1 製造業における価値創造プロセス
図1 製造業における価値創造プロセス
大きく4つに分類される。Plattform I4.0の資料を日本語訳した。
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 1つめは、製品ライフサイクル管理(PLM:Product Lifecycle Management)です。これは、RAMI4.0の「Life Cycle & Value Stream」の軸に相当するもので、製品のアイデア創出から要件定義、開発、ナレッジの再利用に至るまで、製品のライフサイクル全体をカバーします。プロトタイプの作成などを除き、付加価値の創出は主にデジタル世界で行われます。

 2つめは、生産システムライフサイクル管理(PSLM:Production System Lifecycle Management)です。メーカーは、組立工場やプラントなどの生産システムを用いて物理的な製品を造っています。PSLMでは、生産システムのコンセプト開発、設計、構築、試運転、運用・保守、廃止措置といったライフサイクル全体をカバーします。そのうち、コンセプト開発、設計、保守計画などはデジタル世界での付加価値プロセス、工場の建設、運用・保守、廃止措置などは物理世界での付加価値プロセスに分類できます。

 3つめは、実際の注文に関する付加価値プロセスであるサプライチェーン・マネジメント(SCM)です。SCMには、製造計画、管理、全物流プロセス、ならびに供給管理が含まれます。

 4つめは、サービスです。これは、交換部品やソフトウエアの更新、稼働率保証といったクラウドを利用したサービスなど完成品の納入先企業に提供されるサービスと、生産システムの最適化など生産システムに提供されるサービスに分けられます。

 これら4つの付加価値プロセスに9つのアプリケーション・シナリオをマッピングしたのが図2です。例えば、「Smart Product Development for Smart Production(SP2)」というアプリケーション・シナリオは、PLMおよびPSLMのデジタル世界に関連していることが分かります。デジタルに管理されている製品開発情報は生産システムにも必要であり、そのまま実際の製品の製造に活用できます。さらに、生産システムから得られるデジタル情報が個別の製品に関連付けられ、製品開発情報と共に一元的に管理されることで、新製品の開発に生かすことも可能になります。

図2 アプリケーション・シナリオと価値創造プロセスの関係
図2 アプリケーション・シナリオと価値創造プロセスの関係
価値創造プロセスに9つのシナリオをマッピングしたもの。Plattform I4.0の資料を日本語訳した。
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