本連載では、ドイツが提唱・推進する「インダストリー4.0」(ドイツ語ではIndustrie4.0、以下I4.0)の取り組みについて、同国をはじめ欧州の最新動向を中心に紹介します。I4.0のコンセプトや事例などを詳細にお伝えしていきたいと思います。読者の皆さんには釈迦に説法ですが、初回ということもあり、まずはI4.0の背景とその中心的な概念について触れたいと思います。
何について議論しているのか
デジタル化がもたらす変化は、企業の効率化やイノベーション創出にとどまらず、企業間連携をグローバルに推し進めていくと考えられています。しかし、日本と同様にドイツでも製造業は中小企業が支えており、そのような変化に対する不安や疑念が根強いようです。
一方で、製造工程がもっと柔軟になり、企業間連携が進めば、新たなビジネスチャンスにもなり得ます。ドイツの製造業が世界に誇れる水準を保つために不可欠な変革として、ドイツ政府もそれを後押しすべくI4.0を推進しています。
I4.0という言葉から、皆さんは何を思い浮かべるでしょうか。I4.0を分かりにくくしている要因の1つに、皆さんの前提知識や経歴が共通ではないことが挙げられます。I4.0を巡る議論では、製造部門やIT部門など多様なバックグラウンドの人たちが同じテーブルに着くので、他者が意図している内容と自分の理解にズレがあったことに後で気付くという経験をされた方も多いのではないかと思います。
そこでI4.0の取り組みでは、初めに「共通言語」を作りました。製造業のデジタル化を検討する上で、お互いが何について議論しているのかを理解するためのフレームワークを用意したのです。それが「Reference Architectural Model Industrie 4.0(RAMI4.0)」です(図1)。RAMI4.0は製造業のデジタル化に必要なものなので、当然ながら製造業の全領域をカバーしていなければなりません。従って、RAMI4.0では複数のレイヤーから成る3次元構造が採用されました。
とはいえ、これだけではRAMI4.0のイメージがなかなかつかめないと思います。ITやEA(エンタープライズ・アーキテクチャー)の分野には、リファレンス・アーキテクチャーあるいはリファレンス・モデルといった用語があります。前者はシステムの実装時に参考とすべきソリューション・テンプレートのようなもの、後者は特定分野を理解するための参照構造や要素間の関係、用語などを定義したものといえます。RAMI4.0は、リファレンス・アーキテクチュアル・モデルという名称なので、どちらに相当するか分かりにくいのですが、RAMI4.0の主な3つの利用目的を鑑みると、少なくとも現時点ではリファレンス・モデルに相当すると考えられます(図2)。