2020年までに世界の130工場を全てIoT(Internet of Things)でつなげる計画のデンソー。IoTの導入により、突出した付加価値や低コストによるものづくりを行う「ダントツ工場」を目指す。それに向けて社内を引っ張るのが加藤氏だ。同氏はダントツ工場においても愛情が大切と語る。工場の設備や製品は愛情を注ぐからこそ競争力が増すと考えるからだ。

 生産設備には、いつか廃棄しなければならない時がやって来ます。その時には、思わず涙が流れます。設備や製品は「意志」や「魂」が宿るものであり、造っている私たちが愛情を注いでいるものだからです。だからこそ、設備を廃棄する時には、設備を造った人や、その設備を使って製品を造ってきた人、保守・点検を担当してきた人の顔が浮かびます。そのため、設備とお別れする時には、それまでお世話をしてくれた人には感謝状を出しています。

 それはそうでしょう。設備や製品は、自分たちで苦労して開発し、設計して組み立てたものだからです。当然、愛情を感じるし、逆に愛情を込めなければ、きちんと造ることはできず、大切にしようとも思わないでしょう。設備や製品は無機物ではなく有機物、もっと言えば「生命体」です。「命」が宿っていると私たちは本気で思っています。そうした風土の中で、私はこれまで仕事をしてきました。

 こう感じるようになったのは、デンソーに入社して生産技術を担当したからです。デンソーの生産技術職には世界でも珍しい3つの役割があります。技術開発とシステム(仕組み)開発、プロジェクトマネジメントです。これらを通じて絶対に成功に導くことが求められます。特に、3番目はデンソー独特のものでしょう。これにより、デンソーの生産技術職は製品設計にも、試作にも、設備設計にも口を出します。商品や事業の企画段階にも入り込み、利益が出るかどうかの判断まで行います。こうして、全領域に対する責任を求められるのです。

 生産技術者を募集すると「設備エンジニア」だと考えて応募してくる人が特に海外では多いのですが、デンソーの場合はそれとは全く異なります。

かとう・みつる
かとう・みつる
1996年に入社。入社以来、生産技術に従事する。2001年から7年間の米国勤務を経て、帰国後は生産技術としてハイブリッド車用モーターの開発を担当。従来にない構造の高効率のモーターと製造工法を実現した。現在は世界中の工場のIoT化を進めている。 (写真:上野英和)