大量のセンサーをばらまき、得られたデータを集めAI(人工知能)で解析する。IoTシステムの普及によりデータで事業の競争力を高められるようになった。データの質と量が事業の成否を決める。大手IT企業がデータを集める仕組みを確立しているが今後も付加価値を総取りするとみるのは早い。データ流通市場やブロックチェーンなどの「革命因子」が現れたためだ。

 IoT(Internet of Things)事業で付加価値を自らに引き寄せようとする動きが、エレクトロニクスメーカーや自動車メーカーから相次いで出てきた。センサーで取得したデータをデータセンターなどのサーバーに集めて解析処理するのではなく、センサー端末側で分散処理して、機器や自動車の側の付加価値を高める。米Google社、米Apple社、米Facebook社、米Amazon.com社。“GAFA”と呼ばれるIT業界の大手から、データが事業で重要になる「データ主導社会」における主導権を取り戻す挑戦である。

クラウドの特権「集約」を民主化

 既存の多くのIoTシステムは、ユーザーの活動や環境の変化などをセンサーで取得し、ネットワーク経由でサーバーに送っている。個々のセンサーの情報だけでは、その価値や意味を十分に理解できないことが大きな理由だ。サーバーにさまざまなセンサーデータを集めて解析することで、より有益な情報が得られる。センサーを提供する「デバイス側」よりもサーバーを提供している「クラウド側」が高い付加価値を享受できる要因となっている。GAFAとくくられる4社は、いずれもクラウド側で強みを持つ企業である注1),注2)。現在のところIoT業界の主役はクラウド側の企業であり、付加価値の源泉となるデータを囲い込み続けている(図1)。

図1 データ流通の普及でIoTのシステム構成は「分散・協調型」へ
図1 データ流通の普及でIoTのシステム構成は「分散・協調型」へ
IoTシステムの代表的な構成例を現在と2020年代で示した。現在は、センサーで集めたデータを事業者などが自社のサーバーに収集し、データを囲い込んでいる。事業者間は競合関係にある。データ流通市場が普及すると、こうした構図が崩れ、データを事業者間や、センサーデータを提供する個人などの間で共有するようになる。
[画像のクリックで拡大表示]

注1)一般に「クラウド」と対立する言葉として「エッジ」を使うことが多いが、この記事では「デバイス」を使う。エッジは、IoTシステムにおいて、サーバーとセンサー端末を仲介するゲートウエーの意味で使われることが多い。この意味における構成では、サーバーから見てインターネットの端(エッジ)にゲートウエーを置き、ここからはローカルのネットワークでセンサー端末と接続する。

注2)「エッジコンピューティング」の「エッジ」も多くはこの意味で使われており、「フォグコンピューティング」の「フォグ」と同じ意味である。クラウド側からは、センサー端末側もゲートウエーと同様に「エッジ側」と表現されることがある。今回の記事では両者を区別するために、センサー端末側を「デバイス側」と呼ぶ。将来的には、デバイス側の能力が高まり、ゲートウエーの機能が不要になる可能性も見越している。この場合、複数台のうち1台のセンサー端末がデータ解析やインターネット接続の機能を備える構成が考えられる。

 一方のデバイス側は、たとえ高精度で長寿命のセンサーを開発しても単独では価値を発揮しにくい。「センサーは(高い価値を認められない)ネジやクギのように見られている」(センサーメーカーの事業責任者)1)。センサーメーカーは、クラウド側のデータ収集システムの下請けに甘んじている状況である。既に、クラウド側が事業面で圧倒的に有利な構図が出来上がっていると言える。