金属は3Dプリンティングのような新しい使い方だけでなく、「入手しやすく、軽くて強い」という従来の魅力をさらに高めるべく、材料としての特性も進化し続けている。例えば、国内では2013年に新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の主催で官民から成る新構造材料技術研究組合(ISMA)が発足。自動車、鉄道、航空機といった輸送機器の軽量化をターゲットに、「革新的新構造材料等研究開発」として新しい軽量化金属およびその製造・加工プロセスの開発が進んでいる。

 ISMAがターゲットとしている金属材料は、マグネシウム(Mg)合金、アルミニウム(Al)合金、チタン(Ti)合金、高張力鋼板(ハイテン)。各材料のプロジェクトを中心に、将来を見越して進む材料開発の最前線を見てみる。

マグネシウム
Al合金並みの加工性を実現し
新幹線のメイン構造材狙う

 Mgは、これまで大型の構造部材としては採用されなかった。酸化しやすい、燃えやすい、加工が難しいといった難点があるからだ。ISMAでは鉄道車両構体として使える難燃性Mg合金とその接合技術を開発し、最終的には実機レベルのモックアップを造ろうとしている。Mg合金による軽量化を図れれば、省エネルギー化や加速性・最高時速の向上が見込める。軽量化した分だけ制振材や遮音材、防音材を追加して騒音を低減することも可能だ。

燃えない展伸材を開発

 カルシウム(Ca)を添加した現行の難燃性Mg合金の多くは鋳造材。展伸材もあるが、実用化されている「AZX61」は、強度と伸びはAl合金に匹敵するものの、Ca添加の影響で加工性が悪く、押し出し成形の速度を上げられない。つまり、生産性が悪く、高コストとなる。

 そこで、ISMAでは、新幹線の車両構体に使われているAl合金「A6N01」「A7N01」に匹敵する強度と伸び、加工性を実現しようとしている(図1)*1。その主要テーマの1つとなっているのが、三協立山が中心となって進めている「易加工性マグネシウム材の開発」だ。A6N01の置き換えを念頭に、同等の強度と加工性を有する材料を開発し、工業レベルで使える製造技術の確立を目指す。最終的には、既存の難燃性Mg合金「AZX311」と同等の難燃性を保ちつつ、引っ張り強さ(Ts)が270MPa、伸び(El)が20%以上で、A6N01並みの押し出し速度(20m/min)を持った新合金を開発し、25mの長尺押し出し材を造るというのが目標だ(表)*2

*1 三協立山が、車両構体として最も使用量の多いA6N01相当の中強度の高速押し出し材を、不二ライトメタルや権田金属工業がA7N01相当の高強度のMg合金形材と厚板を、住友電気工業が内装パネルなどに使う5000系Al合金に相当する薄板Mg合金材の開発を進めている。

*2 それに向けて、Ts250MPa以上、El15%以上で汎用の押し出しMg合金材である「AZ31」と同等以上の押し出し速度を実現するという第1期中間目標を、最終目標と同等のTs、El、加工性を持つ押し出し材を製造するという第2期中間目標を設けている。

図1 プロジェクトで開発を目指すMg合金と部材
図1 プロジェクトで開発を目指すMg合金と部材
700系新幹線を念頭にMg合金による車両構体作製を目指す。三協立山は最も多く使われる、段ボールのように2枚の板の間に山形の板材を配した形状の「ダブルスキン形材」の押し出し材を開発する。図はISMAの資料を基に本誌が作成。
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表 易加工性Mg合金開発の目標
表 易加工性Mg合金開発の目標
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 その実現に向け、2015年度には新合金を開発した(以下、開発合金)*3。難燃性はAZX311相当を確保。第1期中間目標の機械特性を満足し、第2期中間目標も実験室レベルでは達成済みという。押し出し速度は15m/minとA6N01ほどではないが、「ダイスの工夫などで、近いうちにA6N01並みの20m/minを実現できる見込み」(同社技術開発統括室製品技術部マグネシウム技術課課長の清水和紀氏)だ。。

*3 主な合金成分はAlが4質量%、Caが1質量%、マンガン(Mn)が0.5質量%以上。プロジェクトに協力している長岡技術科学大学の研究成果などを生かして合金組成を工夫して開発した。