トヨタ車体精工は新しいシートのスライド機構「LSR(Loose-less Smooth-slide Rail)」を開発した(図1)。「軽く滑らかに動くこと」と「ガタなくしっかり固定すること」を両立させることで、3列シート車の商品性を向上させた。既に国産車、海外生産車向けに納入が始まった。
3列シートのミニバンやSUV(スポーツ・ユーティリティー・ビークル)の2列目シートには、長い距離を動くスライド機構が欠かせない。シートは普段は2列目の位置にあり、時には限界まで前進して3列目からの乗り降りを助ける。3列目に人がいないときは後退して2列目の足元を広くする。首相官邸などのテレビ映像からも分かるように、上級ミニバンやSUVは高級車の主流になりつつある。偉い人が乗る特等席は2列目だ。限界まで広くする必要がある。
長いストローク
2列目シートの前後ストロークは、長いもので1200mmもある。一般的な1列目シート(運転席、助手席)のストロークは長くて260mmだから、5倍近い。このため1列目シートとはスライドの構造が違う。
1列目シートはコロやボールを使うものが多い。机の引き出しでよく使う構造に近い〔図2(a)〕。コロやボールの原理上、車体側レール(ロアレール)とシート側レール(アッパーレール)は同じくらいの長さが必要になる。この方式の課題は、アッパーレールを長くできないことだ。アッパーレールが1mもあれば、シートの前後に突き出して邪魔になる。また、ストロークの端では、コロやボールがアッパーレールの端に寄るため、安定して支えることも難しい。
これに対してミニバンの2列目シートでは、アッパーレールにあるのはコロではなく車輪であり、しっかり軸受で支えている〔図2(b)〕。それがロアレールの上を走る。アッパーレールはシート長に近い長さがあるため“レール”と呼ぶが、動きとしては鉄道でいうレールと台車の関係に近い。ロアレールがレール、アッパーレールが台車である。レールならいくらでも長くでき、台車ならシート長に収まる長さにできる。