ルネサス エレクトロニクスを飛び出した熟練半導体技術者2人がタッグを組んだ。1人は、32ビットマイコン「SuperH(SH)」の開発を主導した河崎氏。もう1人が、長年半導体開発に関わり、現在、年間1000個ほどの半導体製品を開封・分析している清水氏である。2人が今、新たに開発している半導体製品の話を聞いた。

テカナリエ 代表取締役<br>清水 洋治氏(しみず・ひろはる)
テカナリエ 代表取締役
清水 洋治氏(しみず・ひろはる)
ルネサスを経て2015年にテカナリエを設立し、現職。半導体製品を開封・分析し、その上で新しい半導体製品の仕様を提案。併せて、年間約100件のレポートも刊行。(写真:加藤 康)
SHコンサルティング(SHC) CEO<br>河崎 俊平氏(かわさき・しゅんぺい)
SHコンサルティング(SHC) CEO
河崎 俊平氏(かわさき・しゅんぺい)
日立製作所におけるPalo Alto Research CenterとのAIプロセッサー開発やSHマイコンの開発などを経て2013年にSHコンサルティングを設立し、現職。(写真:加藤 康)

河崎氏:我々SHコンサルティング(SHC)は、新しいオープン命令セット「RISC-V」(リスクファイブ)を実装したCPUコアを搭載する、モーター制御用の64ビットマイコンを作ろうとしています。狙うのは、ロボティクスや自動車分野です。いずれも、IoT時代に大きな成長を見込める市場です。ロボットや自動車には多数のモーターが搭載されており、出荷数量も増加傾向です。

 加えて、今後はさらにインテリジェントなモーター制御が求められるようになる。こうした制御には、64ビットマイコンが必要になるでしょう。マイコンのようなチップの提供だけでなく、CPUコアのIPのライセンスも考えています。

清水氏:これまでの約10年間、半導体市場のけん引役はモバイル機器でした。モバイル機器が主導した時代は、あらゆる構成部材が標準化され、コモディティー化が進みました。今後は、IoTがけん引役になり、RISC-Vに準拠したCPUコアのような新しい技術を採用した半導体が求められる、コンピューティング主体の時代になると考えています。

河崎氏:RISC-Vの仕様策定団体である「RISC-V Foundation」には、米Google社や米Hewlett Packard Enterprise社、米IBM社、米Microsoft社、米NVIDIA社、米Oracle社といった米国の半導体・IT分野の大手企業だけでなく、さまざまな企業が参画しており、RISC-Vの活動は「大きなうねり」になっています。

 IoT時代では、組み込み機器が主役です。時代の要求に合致するのがRISC-V準拠のCPUコアだと考えています。ARMコア並みに省電力なことに加えて、RISC-Vがオープンな無償で使える命令セットだからです。これにより、組み込み機器用のマイコンやICなどを安価に実現できます。例えば、私の見積もりでは、「ARM Cortex-M0」の約50倍に相当する、毎秒4Gオペレーションを超える演算処理性能のCPUコアを採用するモーター制御用64ビットマイコンの製造原価を、2020年までに30円以下にできるとみています。

 組み込み機器の構成部材はある程度標準化できますが、用途ごとに頻繁にカスタマイズされます。CPUコアも同じです。ARMコアを利用した場合、標準仕様の命令セットだけでなく、用途ごとにさまざまな拡張仕様の命令セットも使う必要があります。拡張仕様を利用すると、場合によってはARMコアとはいえ、ライセンス料は高価になります。拡張仕様の選択作業も煩雑です。その点、RISC-Vの枠組みを使えば、こうした不便な点を回避できると判断しました。