意識を人工的に再現する。野心的な開発目標を掲げるのがベンチャー企業のアラヤである。神経科学分野出身のCEO(最高経営責任者)が一線級の研究者を率いる姿は、人工知能(AI)研究で世界のトップを走る米Google社傘下の英DeepMind社さながらだ。アラヤを支える意識の理論と実用化への道筋を、CEOの金井良太氏に聞いた。

金井 良太氏(かない・りょうた)
金井 良太氏(かない・りょうた)
2000年に京都大学卒業。米California Institute of Technologyなどを経て2015年まで英University of Sussex准教授を務める。2015年にアラヤを創業。(写真:加藤 康)
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 我々は、意識を人工的に作り出すことを目標に研究開発を進めています。「怪しいことをやっているな」と見られることも多いですが、地道に取り組んでいるという印象を持ってもらえる方が最近増えてきました。

 意識に関して、大きく2つの研究開発をしています。1つは、意識の機能に着目して、それを再現しようというものです。いわゆる強化学習の発展形といえる技術を開発しており、ロボットの制御の最適化に使おうとしています。もう1つは、生物や機械に意識があることを証明する研究です。米University of Wisconsin, Madison校教授のGiulio Tononi氏らが提唱する「統合情報理論(IIT:Integrated Information Theory)」を利用して、人工知能(AI)に意識があることを証明するのが目標です。

 前者の研究では、意識の機能を説明する仮説として、「反実仮想的情報生成理論(Counterfactual Information Generation Theory)」を提唱しています。意識の機能は、「現在の感覚とは切り離された仮想的な情報、例えばこれから起こりそうな状況などを内的に生成して、未来の行動計画などに利用すること」と考えるものです。

 現在、この考えに基づいたシステムを開発中です。強化学習の効率を高められると考えています。直接の狙いは、ロボットなどに自らの制御方法を自律的に学習させることです。「反実仮想」の発想を利用すれば、ロボットは行動のポリシー(方策)を、状況に応じてその場その場でつくり出せる。実際、倒立振子を立てるといった簡単な制御のシミュレーションで、狙った効果を出せることを確かめています。