次世代のパワー半導体材料「Ga2O3(酸化ガリウム)」で業界に新風を巻き起こしているのが京都大学発のベンチャーFLOSFIA(フロスフィア)。2016年に入り、酸化ガリウムのダイオードのサンプル出荷を開始。積年の技術課題にも解決のメドを付けた。同社を牽引する人羅氏と金子氏に、酸化ガリウムに注目した理由や事業計画などについて話を聞いた。

(写真:福尾 行洋)
(写真:福尾 行洋)

人羅氏:私はFLOSFIAの「創業社長」ではありません。代表取締役社長になったのは2012年6月です。そのころ、FLOSFIAは「ROCA(ロカ)」という社名で、汚水処理などに用いるろ過膜を手掛けていました。京都大学 教授の藤田静雄氏らの研究成果である「ミストCVD法」で高性能なろ過膜を製造することをウリにしていました。同法の特徴は、高価な真空装置が不要なことです。

金子氏注1):ROCAは、京大の教員や研究員、学生など15名が資金を出し合って設立した企業で、私は本業の研究に近い範囲で研究開発を統括していました。ですが、人材不足や投資集めのための株式整理における混乱などで、先行きに限界を感じていました。そんなときに、学生時代の知り合いで、別の半導体ベンチャーを立ち上げた経験を持っていた人羅さんに社長をお願いしました。

注1)同社と共同研究に取り組むのは、京都大学 工学研究科附属 光・電子理工学教育研究センター 教授の藤田静雄氏の研究室。金子氏は同研究室出身で、現在助教を務める。

人羅氏:私が社長になったころ、ろ過膜の事業は事実上ストップしていました。そこで、コア技術であるミストCVD法を生かす新たな事業をゼロベースで考え直しました。目を付けたのが、金子先生の博士論文です。ミストCVD法で、サファイア基板上に酸化ガリウムの混晶薄膜を成膜した成果でした。

金子氏:当時、情報通信研究機構(NICT)とタムラ製作所などのグループが酸化ガリウムのトランジスタ(MESFET)を試作し、パワーデバイスとして注目を集めていました。酸化ガリウムの中でも「β型」と呼ばれる結晶構造のものを利用した成果です。これに対して、我々が開発したのは「コランダム」と呼ばれる結晶構造を備えた「α型」です。