(写真:加藤 康)
(写真:加藤 康)

自動運転ソフトウエア「Autoware」の開発で知られる東京大学准教授の加藤真平氏が、独自ハードウエアの研究に乗り出した。NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)のプロジェクトの一環で、グラフィックスLSIを手掛けるアクセルなどと組む。自動運転車や監視カメラ向けの専用チップを開発する狙いを、加藤氏とアクセルの水頭氏に聞いた。

水頭氏:我々は、IoTをテーマに掲げたNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)のプロジェクトの一環で「ドメイン特化型IoTプラットフォーム」の研究開発を手掛けています。ドメインとは特定の用途や分野のことを指し、例えば監視カメラ、次世代モビリティー、ロボットといった分野に特化した基盤システム(プラットフォーム)をつくります。特定のドメインに特化してつくり込むことで、汎用品より高性能かつ省電力にできます。

 プロジェクトには東京大学、大阪大学と、イーソル、アクセルの4者が参画します。アクセルがドメインに特化したハードウエアを作り、その上にイーソルが開発する組み込み用リアルタイムOSが載り、さらにその上に大阪大学が手掛ける分散処理ソフトや、東京大学が作るドメイン特化型のフレームワークが載ってプラットフォームができあがります。まずはモビリティーと監視カメラの2分野が主な対象です。

加藤氏:僕らの強みは、少なくとも自動運転のような次世代モビリティーへの応用に対してスペック(仕様)を知っていることが大きい。ソフトウエア屋であり、(オープンソースの自動運転ソフトウエア「Autoware」の開発や、その実用化を進めるベンチャー企業ティアフォーの創業などを通じて)ずっと実証実験もしてきた僕らは、どういうチップをつくれば、どこまでできるかが分かります。自動運転に必要な処理能力や機能に関する知見があるので、何をハードウエア化して、何をCPUに残して、何をGPUでやればいいかが分かるんです。

 シリコンバレーにもそこまで知っている企業はほとんどいないはずです。例えば彼らが自動運転で本当にアプリケーションの領域までやっているかといえば、そうではない。もちろん、(車載カメラ用ASICを手掛ける)イスラエルMobileye社は分かっています。ただし分かっているレベルが、白線検知や自動車検知といった範囲にとどまっている。その部分では彼らはスペシャリストだけど、決して自動運転や次世代モビリティー全般ではない。

 分かっている人がつくるチップと、分からないで取りあえず全部載せておこうというのでは、だいぶ話が変わります。ドメインに特化するときに、そのドメインの知識を持っていないと、どういうチップをつくっていいかが分からないわけです。監視カメラの分野も一緒だと考えています。

 確かに特化型は開発コストも高い。試作を繰り返しますから。でも、自分たちに知識があるドメインで、かつそのドメインの市場が大きいという条件が整えば、ドメイン特化のチップを作っても数が出るので採算がとれる。逆にCPUはそのドメインを取れなくなる。みんながそういうことをやり出せば、CPUなどの汎用製品の市場はどんどん小さくなっていく。今から戦略的にやるには、ドメイン特化しかないと思います。今から日本の半導体メーカーがすごいCPUやすごいGPUをつくることは、はっきり言ってあり得ない。ですが、Mobileye社のチップみたいなものを日本でつくることはできる。いかにして、それを戦略的にやるかです。

 ニッチな市場では、これはできません。モビリティーとか、監視カメラ、ロボット、ドローンなど、これからかなり伸びるところでないと、このアプローチは使えません。Mobileye社が特化したASICで事業をしているように、どんなLSIをつくっても、車に載せられたら基本的には(コストを)回収できます。また、今後のロボットやIoTの市場では、例えば毎年1000万台出てくれるのなら、汎用品のCPUとコスト感は変わらなくなってくる。ロボットやIoTは、ひょっとするとパソコンよりも数が増えていきます。

 ただし、僕らは最後のチップを作るところまではやらないんです。特に、自動車向けはお金がむちゃくちゃ掛かるので、資金を持っているところでないと難しい。機能安全を保証するために、開発のプロセスも含めて、検証や人件費まで合わせると、(開発コストは)1000億円コースなんです。今のこのチームだけで何千億円も投資することはできません。誰がチップを作るかというと、半導体工場を持っている企業は世界に数社しかありませんので。