化学産業の製造プロセスに新風を巻き起こしているベンチャーが、マイクロ波化学である。その名の通り、マイクロ波を利用する技術で、従来の化学反応に比べて大幅なエネルギー削減と製造設備の小型化を図る。2014年の自社工場の立ち上げを契機に、大手企業との協業が加速している。同社の共同創業者である吉野氏と塚原氏に今後の事業計画などについて聞いた。

マイクロ波化学 代表取締役社長 CEO<br>吉野 巌氏(よしの・いわお)
マイクロ波化学 代表取締役社長 CEO
吉野 巌氏(よしの・いわお)
三井物産に入社後、化学品本部に所属。米国でコンサルティングなどに従事。2007年8月、マイクロ波化学を設立し、現職。(写真:加藤 康)
マイクロ波化学 取締役CSO<br>塚原 保徳氏(つかはら・やすのり)
マイクロ波化学 取締役CSO
塚原 保徳氏(つかはら・やすのり)
2006年大阪大学大学院工学研究科 特任准教授に就任。2007年8月、マイクロ波化学を設立し、現職。(写真:加藤 康)

吉野氏:100年以上大きく変わらなかった化学産業の製造プロセスに変革をもたらす。そんな思いで、2007年にマイクロ波化学を立ち上げました。我々の技術は、塚原(取締役CSO(Cheif Scientific Officer)で、大阪大学大学院 工学研究科 特任准教授)の研究成果を基にしています。マイクロ波で特定の分子に直接エネルギーを与え、触媒界面を高温高圧状態にして効率の良い化学反応を得る技術です。物質全体に熱を伝える従来法に比べてエネルギー消費量を約1/3に、製造設備の敷地面積を約1/5に削減できます。

 我々のマイクロ波技術は、化成品や高分子、薬品、金属ナノ粒子、グラフェンなどの新素材、液体から粉体、ガスの製造まで幅広い用途に適用できます。食品や製薬で用いる凍結乾燥にもマイクロ波は適しています。

 その中で、マイクロ波の効果が出やすく、かつ付加価値が高い材料の製造にまずは適用し、その後、年間で10万t以上という大量生産が必要な汎用材料の製造にも適用する計画です。もちろん、我々単独では大規模な化学工場を作れません。大手化学メーカーと共同で工場を立ち上げたり、技術をライセンスしたりすることが事業の根幹です。利用する原材料に応じて変えるマイクロ波の周波数や温度などといった「レシピ」の他、マイクロ波に適した触媒、製造装置やその管理システムなどを一括で提供できます。

塚原氏:化学産業のプロセスにマイクロ波を適用するというアイデアは従来から存在し、これまで多くの大学や研究機関が研究してきました。ですが、どれも実験室レベルの設備と生産量で、実用化とは程遠かった。我々は、長年不可能だといわれてきたスケールアップを実現し、2014年春に自社工場を立ち上げました。大手化学メーカーに比べれば、規模は小さいですが、本格的な量産に向けたパイロットラインという位置付けです。このラインだけで年間数千tという相当な量を生産できますし、スケールアップも容易です。

吉野氏:マイクロ波技術は化学製造の業界では新参者で、受け入れてもらうには「実績」が必要でした。最初の大きな実績がこの自社工場です。ここで、2014年春から新聞向けインキなどの原料になる「脂肪酸エステル」を生産し、東洋インキ向けに出荷を始めました。その後、同年8月には、ドイツの大手化成品メーカーであるBASF社と、樹脂の原料になるポリマーの共同開発契約を結びました。