ミリ波レーダーが「LiDARキラー」になりつつある。分解能が急激に高まり、物体の認識能力を備えるようになった。これまで認識にはLiDARとカメラが必要で、レーダーは補佐役だった。既存のレーダーにほとんど使わなかった検知技術やアンテナ技術、アルゴリズムを総動員して、分解能はまだ上がりそうだ。

 ミリ波レーダーの進化が著しい。自動運転に必要なセンサーとして脚光を浴びるLiDAR(Light Detection and Ranging)の陰でこれまで目立たなかったが、この1年ほどの間に急激に存在感を高めている。LiDARに迫る認識を可能とする解像度が実現可能になったことによる。

 レーダーの能力向上のけん引役は大きく3つある(図1)。(1)世界中で利用できる無線周波数帯域幅の拡大、(2)半導体の微細化、(3)アンテナ技術の進歩である。

図1 レーダーに追い風
図1 レーダーに追い風
現在開発段階にあるレーダーの高性能化と、進化を支える要因。今後も半導体の高性能化で複雑な解析が利用できるようになり、分解能を継続的に向上できる可能性がある。
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 (1)の無線周波数帯域は、76G~81GHzの連続する帯域幅5GHzが利用できるようになったことが大きい。従来は連続した3GHz幅が最大だった。2015年開催の「WRC-15 (World Radiocommunication Conference 2015)」で、従来レーダーに使えなかった77.5G~78GHzの帯域の利用を可能にすることを決めた。将来的には136G~148.5GHzの連続した12.5GHz幅がレーダーに利用できるようになる見込みだ。帯域幅の拡大は、一般に距離方向の分解能を改善する。

 (2)半導体の微細化によって、CMOS技術でより低コストにRF(無線周波)ICを実現できるようになる。さらに電波をビーム状に送信するための処理(ビームフォーミング)や、受信電波の解析のために安価で低消費電力の演算能力が使える。方位分解能の向上に寄与する。

 (3)アンテナ技術では、ビームフォーミングで一般的なフェーズドアレー以外の手法を試みる開発が活発になっている。ビームの先鋭化や検知範囲の長距離化に寄与する。

 元来レーダーは、LiDARにない特徴を備える。ドップラー効果を利用して速度を直接検出でき、雨・霧・雪や西日での検知能力が概して高い。低コストにしやすいことも魅力だ。可動部がなく、RF部を含めてCMOS技術で半導体にできることによる。アンテナは、プリント基板をベースにするか、金型加工などで量産に適した安価な製法で実現できる。物体認識が可能なレベルまで高分解能化が進めば、まさに「LiDARキラー」となる。