デジタル、つまり論理演算が可能な本物の量子コンピューターの実現ははるか先。一方で、アナログ計算限定の“量子コンピューター”の商用化は既に始まっている。競合するのは本物につながる技術を用いた量子ゲート型と、物理学の模型に基づくイジングマシン型の2つに大別できる。当初はイジングマシン型が商用化で一歩リードしている。

 厳格な定義には従わない各種の“量子コンピューター”の実用化競争が始まっている(図1)。その筆頭は、2011年にカナダD-Wave Systems社が発売したイジングマシンだ。D-Wave社はマシンの販売に加えて、オンラインでの時間貸しサービスも提供している。富士通の「Quantum-Inspired」なイジングマシン、そして米IBM社やベンチャーの米Rigetti Computing社の量子ゲート型マシンも、オンライン型試験サービスを先行ユーザーが利用し始めており、近い将来に商用化される見通しだ。

Quantum-Inspired=一般には、古典的な計算ではあるが、確率的な効果などを取り入れて量子力学の特性を模倣した計算を指す。富士通の場合は、「量子コンピューターと考え方が共通する」(同社)ことを意味している模様だ。
図1 企業が続々とパートナーシップ
図1 企業が続々とパートナーシップ
“量子コンピューター”の適用が見込まれる主な領域を示した(a)。(1)量子化学、(2)組み合わせ最適化問題、(3)機械学習で、“量子コンピューター”の方式によらず、当面はこの3分野に絞られる見通しである。これらの領域で“量子コンピューター”の利用を見込む企業を、“量子コンピューター”のメーカーごとに示した(b)。JSRはIBM社のマシンまたはその技術を用いて、2025年にも材料開発を始める計画と報道されている。Dow Chemical社は1QBit社と提携。富士通はその1QBit社に20億円を出資して筆頭株主になった。(写真:Volkswagen社)
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