バーチャルリアリティー(VR)やロボティクスの分野で、触覚技術の重要性が急速に高まっている。触覚技術によって新しい価値を創り出すためには、ヒトの触覚のメカニズムや特性についての理解が不可欠である。これらの基礎と新技術の展開、さらに触覚技術の応用や可能性について解説する。 (本誌)

 受け手にとって触感すなわち感覚として十分なリアリティーを得られる情報(刺激)を提供し、特定の感覚を生成・増強するためには、まず、触知覚特性を理解することが重要である。今回は、皮膚感覚を発生させる機械受容器の特性と、感覚をデザインする際に極めて大きな意味を持つ錯覚について俯瞰する。

機械受容器=感覚の元となる刺激を受け止めて、神経信号を発生する細胞や器官のことを受容器と呼ぶ。

 触覚の中でも皮膚感覚の取得に関与するのは、皮膚に分布する4種類の機械受容器および自由神経終末とされている。すなわちヒトの触覚センサーである。皮膚の構造とその分布を、図1に示した。

図1 皮膚に分布する4つの機械受容器
図1 皮膚に分布する4つの機械受容器
ヒトの皮膚は表皮、真皮、皮下組織の3層構造であり、指紋隆線の裏に真皮乳頭という凸部がある。ここに、受容器の「マイスナー小体」と「メルケル細胞」がある。さらに深部にはタマネギ状の「パチニ小体」や、「ルフィニ終末」(詳細は未解明)がある。
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 4種の機械受容器についてその特性の詳細を述べる。これらは位置や大きさだけでなく、刺激の振動数や振幅における敏感な帯域、皮膚表面温度の影響の有無(例えばパチニ小体は低温では鈍くなる)などの特性に差異があり、役割分担があると考えられている。例えばマイスナー小体とメルケル細胞は空間パターン検出(形状など)、パチニ小体は振動検出(テクスチャー)、ルフィニ終末は皮膚の引っぱり検出を担うとされている。さらに、側抑制によるエッジ強調、パチニ小体における空間加算特性などの神経生理学的特性もある。

空間加算特性=機械受容器において、刺激を受ける面積の増加によって感覚強度が増加する特性。ごく小さな点に高周波の刺激が当たっても感じにくいが、大きな面積で作用すれば感じることができる。