イラスト:ゲッティ イメージズ
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「神戸製鋼所による品質データの偽装は氷山の一角。他社も偽装に手を染めているのではないか」

 2017年10月、神戸製鋼が品質データを偽装したアルミニウム合金板や銅管などを約500社の顧客に出荷したと公表した際、製造業の関係者の間でこんな声が飛び交った。

 その懸念は現実と化した。三菱マテリアルが同年11月23日、東レが同年11月28日、それぞれの子会社で品質データを偽装した製品を出荷していたと公表した(別掲記事参照)。特に三菱マテリアルの子会社である三菱電線工業は、データ偽装の事実を把握した後も約8カ月間にわたって、データ偽装の可能性がある製品を出荷し続けたと明らかになり、「品質よりも収益を優先した」との批判を浴びた。

「法令違反などなければ原則非公表」

 しかし、水面下に隠れたデータ偽装の実態が今後、明らかになる可能性は低い。例えば、東レ社長の日覚昭広氏は会見の中で、品質データの偽装について「法令違反や安全性の問題がなく、取引先との間で解決すれば、通常は公表しない」と語った(図1)。三菱マテリアル社長の竹内章氏も同じ趣旨の発言をしている。

図1 データ偽装に関する会見の様子
図1 データ偽装に関する会見の様子
品質データの偽装に関する会見を2017年11月24日に開いた三菱マテリアル社長の竹内章氏(左、写真:都築雅人)と同年11月28日に会見を開いた東レ社長の日覚昭広氏(右)。両氏とも、データ偽装について原則非公表とする見解を示した。
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 日本経済団体連合会(経団連)も同様の考ええだ。2017年12月4日に日本国内のメーカー約1300社に対し、品質データ偽装に関する社内調査を要請したが、経団連会長で東レ相談役の榊原定征氏は調査結果について「契約内容などを踏まえて、経営トップが公表するかどうか総合的に判断することになる」と発言。安全性に問題がなかったり、顧客との交渉で解決したりしたケースは「公表の必要なし」とする見解を示した(図2)。

図2 経団連会長の榊原定征氏の発言
図2 経団連会長の榊原定征氏の発言
経団連のウェブサイトで公表された経団連会長で東レ相談役の榊原定征氏の発言。各メーカーが実施する品質データ偽装に関する調査結果について、「何でも公表できるというものでもない」と述べている。 (出所:日本経済団体連合会)
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 経団連のお墨付きを受けた以上、東レや三菱マテリアルが主張する「原則として非公表」の姿勢に今後は他のメーカーも追随する可能性が高い。榊原氏の発言は、品質データ偽装問題の事実上の幕引きを図ったようにも見える。